
「性犯罪マップ」と称するサイトが公開され、社会に波紋を広げている。防犯を目的に運営者が公開した地図は、性犯罪の発生地点や加害者情報をマッピングしたもので、自衛のために活用したいという声が上がる一方、個人情報の無断使用や人権侵害の懸念も指摘されている。果たしてこの「性犯罪マップ」はどのような問題をはらんでいるのか。事実関係と法的視点から詳しく解説する。
性犯罪マップとは?
「性犯罪マップ」は、性犯罪が発生した地点や加害者の年齢、住所の丁目までを地図上に表示するウェブサイトだ。無料版と有料版が存在し、無料版では「逮捕容疑」「報道日時」「加害者年齢」「性別」などの基本情報が閲覧可能。有料版では、事件の詳細や出典元のメディア、加害者の処分内容など、より踏み込んだ情報が公開される仕組みとなっている。
このサイトの運営者は「子どもを守るための防犯目的」での公開であると説明し、アメリカで導入されている性犯罪者の居住地情報を確認できる「メーガン法」に着想を得たという。
しかし、SNS上では「子どもを守るために必要だ」という肯定的な意見がある一方、「個人情報保護法に違反している」といった批判的な声も多く上がっている。
増加する性犯罪と被害の現状
性犯罪が増加する中で「性犯罪マップ」のような防犯対策が注目されているが、現状の被害は深刻な状況にある。
警察庁の発表によると、不同意性交の認知件数は増加しているという。特にSNSを通じた子どもへの犯罪被害は依然として多く、2023年にはSNS起因の被害件数が1486件にのぼった。さらに、小学生の被害件数は10年前の3倍以上に増加しているというのだ。
これはオンラインゲームやSNSが加害者との接点になり、ゲーム内の会話機能やボイスチャットを通じて誘導されるケースが増えているという。警察庁は「一見して犯罪と関係ない内容でも巻き込まれる可能性がある」と注意を呼びかけている。
法的な問題点
「性犯罪マップ」には、個人情報保護法上の問題が指摘されている。報道によると、性犯罪マップには「要配慮個人情報」が含まれているとされる。
個人情報保護法では、犯罪歴や病歴など特に慎重な取り扱いが求められる情報を「要配慮個人情報」とし、本人の同意なく取得することは原則禁止されている。
一方で、例外として「報道機関が公開した情報」については、本人の同意がなくても利用できる規定が存在する。性犯罪マップの運営者は「報道情報をもとに作成している」としているが、性犯罪の被疑者情報は要配慮個人情報に該当し、取り扱いには慎重さが求められる。
さらに、性犯罪マップはGoogleマップ上に加害者情報をプロットして公開しており、これは「個人データの第三者提供」に該当する可能性がある。法的には、本人の同意がない場合、個人データの第三者提供は原則禁止されているため、違法性が問われる可能性がある。
「子どもを守るために」許される?
性犯罪マップの運営者は「子どもたちの安全のため」として公開を続けている。しかし、法的な観点では「児童の健全な育成」のためであっても、第三者提供の同意を得ない限り、要配慮個人情報を公開することは適法化されにくいと指摘されている。
2019年に公開された「破産者マップ」では、自己破産した人の情報を地図上にマッピングし、社会問題となった。破産者マップの場合、要配慮個人情報には該当しなかったが、オプトアウト(事前に通知して同意を得る方法)を行わなかったことで違法性が認定された。性犯罪マップの場合は、そもそも「要配慮個人情報」であるため、オプトアウトの手続きを行ったとしても適法化される可能性は低い。
また、冤罪の被疑者や事件に関わる被害者の情報が誤って掲載されるリスクもある。事実確認が不十分な情報が拡散された場合、無実の人が社会的な不利益を受ける可能性も指摘されている。
まとめ
性犯罪マップは、子どもを守るという目的から生まれたものだが、個人情報保護の観点からは大きな問題をはらんでいる。性犯罪が増加する中で、防犯への関心が高まるのは当然だが、その手段が法を逸脱してはならない。性犯罪マップが抱える問題は、情報の正確性や人権侵害のリスクと密接に関わっている。今後は、政府や関係機関が適切な防犯対策を講じつつ、個人の権利が守られる仕組みを整備していくことが求められる。