年末年始の風物詩である忘年会の実施率は59.6%と、コロナ禍後で最も高い水準に。
だが、従業員の意識の変化や企業の価値観の多様化が課題となっている。
忘年会の実施率は59.6%に コロナ禍から回復
2024年末、コロナ禍で停滞していた忘年会文化が少しずつ復活していることが明らかになった。東京商工リサーチが12月上旬に実施した調査によると、忘年会を実施する企業は全体の59.6%に上り、前年の55.9%を上回った。
これはコロナ禍後で最高の水準だが、依然としてコロナ禍前の水準には届いていない。
忘年会はかつて「従業員の労をねぎらい、次の年への士気を高める場」として多くの企業で行われてきた。しかし、3年以上続いたコロナ禍を契機に企業の宴会文化や従業員の価値観は大きく変化している。
忘年会を実施する企業の理由
東京商工リサーチの調査結果によると、忘年会を実施する企業の理由として最多だったのは「従業員の親睦を図るため」(87.1%)。次いで「従業員の士気向上のため」(51.1%)が挙げられた。
これらの理由は、忘年会が単なるイベントではなく、職場の結束力を高める場としての役割を担っていることを示している。
また、「会社の定番行事のため」と回答した企業は38.1%と、親睦や士気向上と比べて低い割合にとどまった。
これは、忘年会を単なる伝統的な行事から、実質的な効果を求める場へと転換する意識が広がっていることを示唆している。
実施しない企業が増える背景
一方で、コロナ禍前は実施していたが、現在は中止した企業も少なくない。
その理由として挙げられたのが「開催ニーズが高くない」(65.1%)で、従業員や経営陣の間で忘年会への需要が低下していることが分かる。
また、「参加に抵抗感を示す従業員が増えた」という回答も36.6%に上った。
特に若い世代を中心に、忘年会を「仕事の延長」として捉える傾向が強く、上下関係を強く意識させられる場として敬遠するケースも増加している。
この傾向は大企業で顕著で、従業員の多様な意見を尊重する動きが広がっていることが背景にあると考えられる。
「労働時間ではない」忘年会への疑問
忘年会を「労働時間ではない」と回答した企業は90.2%に上った。しかし、実際には忘年会で業務に関する話題や上司への気遣いが必要とされるケースが多く、従業員からは「業務の一環」という印象を持たれることも少なくない。
この認識のギャップが、忘年会の開催ニーズの低下や若者を中心とした参加への抵抗感を生む要因の一つとなっているといえよう。
「労働時間ではない」という立場を企業が強調する一方で、忘年会そのものの在り方を見直す必要性が浮き彫りになっている。
忘年会の地域差と今後の展望
調査では、忘年会の実施率が地域によって大きく異なることも分かった。
高知県や沖縄県では実施率が全国平均を大きく上回る一方、和歌山県や徳島県では低い水準にとどまっている。
地域ごとの文化や通勤距離の違いが、この差異を生む要因と考えられる。
忘年会は、ただの飲み会にとどまらず、企業文化や従業員同士のコミュニケーションに影響を及ぼす重要な行事としての年末の風物詩でもある。しかし、コロナ禍を経て、その在り方が改めて問い直されている。
現在、多くの企業では従業員の価値観やライフスタイルの変化を受け止めつつ、次の年に向けた活力を得られるような新たな形の忘年会を模索する動きが見られる。従業員の意識を尊重し、個々が安心して参加できる場を提供することは、従業員のモチベーションの向上、ひいては企業の価値向上にもつながることだろう。
年末の集まりを通じて社員が一体感を共有し、年明けからの新たな挑戦に向けた意気込みを高める場として、忘年会が進化していくことに期待したい。
【参照】
忘・新年会「実施」は59.6%、コロナ禍後の最高 宴会は「労働時間ではない」90.2%、認識にギャップ(東京商工リサーチ)