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企業と人権デューデリジェンス

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写真:Pixabay

今年も世界情勢は大きく激変しました。最も衝撃を与えたのがロシアによるウクライナ侵攻で、それによりマクドナルドやスターバックスなど世界的な欧米企業のロシアからの撤退が相次ぎました。

侵攻後、日本企業の間でも撤退や規模縮小、ロシアとの取引禁止などロシア離れの動きが加速化し、9月には大手自動車メーカーのトヨタ、マツダ、日産が相次いでロシア事業からの撤退を発表しました。

プーチン大統領は依然として強気の姿勢を崩しておらず、来年も日本企業はこの問題に悩まれそうな感じです。

台湾有事での企業対応

また、ウクライナのように有事には至っていませんが、今年台湾を巡る緊張が高まったことで企業の間で台湾有事を懸念する声が拡大し、サプライチェーンや駐在員の安全保護といった視点から対策を練り始める企業が増えるようになった感じがします。

現時点で台湾から撤退する企業はないと思われますが、来年以降、企業はこの問題で忙しくなるかも知れません。

人権デューデリジェンスの重要性

一方、近年の地政学リスクと企業の関係をみていると、企業にとって人権デューデリジェンスが大きな問題になっているように思います。

人権デューデリジェンスを簡単に説明すれば、会社が自ら行う経済活動の中で人権に関するリスクがあるかどうかを調べ、リスクがあればその防止、軽減に努めることです。そして、米中対立が激化する中、企業が人権デューデリジェンスに直面するケースが近年見られます。

トランプ政権になって以降、米中間では関税引き上げや輸出入制限などのいわゆる貿易戦争が激化しましたが、それはバイデン政権にも受け継がれています。しかし、トランプ政権と違いバイデン政権は人権問題を重視する路線で、中国に対して人権問題絡みの制裁措置を強化していますが、それによって企業が大きな影響を受けるようになりました。

中国新疆ウイグル自治区の人権侵害問題

その中心的な話題が、中国新疆ウイグル自治区における人権侵害です。バイデン政権は中国が長年同地区でウイグル族に対して強制労働(綿花栽培など)や洗脳教育(イスラム教徒のウイグル人たちを職業訓練所と呼ばれる施設で中国語、中国文化を習得させる)など人権侵害を行っているとして、人権侵害に関わった中国当局者への制裁発動、新疆ウイグル産の品目の輸入停止などを通して圧力を掛けています。

政治の世界で強制労働によって製造、栽培された品目を使うなんてけしからん!とする風潮が強まることにより、企業の世界にもその影響が及ぶようになりました。

たとえば、スウェーデン衣料品大手「H&M」は2021年3月、新疆ウイグル産の綿花を使用しないと表明しましたが、それによって中国国内のネットやSNS上では、「もうH&Mの商品なんて買うな」など反発や不買運動を呼び掛ける声が瞬く間に拡大しました。

H&Mは2021年7月、今年3月~5月期の決算を発表し、中国国内での総売り上げが前年同期比で28%も減少し、H&Mの中国国内の店舗数も13減少して489店となったと明らかにしました。

日本企業への影響

日本企業も影響受けました。たとえば、強制労働によって栽培された綿花を材料として使用しているとして、2021年1月、ファーストリテイリングが展開するユニクロの男性用シャツが新疆ウイグル自治区で生産された綿花で製造された可能性があるとして、米国への輸入が停止されるケースが2021年5月に明らかになりました。

また、同年4月には、フランス国内の人権NGOなどが、新疆ウイグル自治区での人権侵害を巡ってユニクロのフランス法人など4社を、強制労働や人道に対する罪を隠匿している疑いで刑事告発しました。同人権NGOなどが告発した背景には、4社が新疆ウイグル産の綿花を使用していないという立場を明確にしていないことがあるとされます。その後、フランス検察当局は同年7月、ユニクロの現地法人など4社を人道に対する罪に関係した疑いで捜査を開始したとされています。

その他にも、日本企業ではウイグルでの強制労働と関係する品物を避ける動きが拡大しました。大手総合メーカーのカゴメは2021年4月、新疆ウイグル産トマトの使用を停止すると発表しました。同社は品質や調達先の安定性、コストなどに加え、今回ウイグルでの人権侵害をめぐる国際的な批判を考慮し、総合的に判断したと明らかにしています。

スポーツ品大手のミズノも同年5月、新疆ウイグル産の綿花使用を停止し、新疆綿を使用してきた商品では違う素材への切り替える方針を明らかにしました。

このように新疆ウイグル自治区の人権問題が米中2大国間で激化したことで、企業は人権デューデリジェンスという難題の直面し、経済活動で大きな影響を受けるようになりました。しかし、その後もバイデン政権は人権問題で中国への制裁措置を拡大しています。

2021年5月には、中国・大連に拠点を置く大手水産会社が所有する漁船内でインドネシア人の乗組員らが強制労働に遭っていたとして、バイデン政権は同社が製造する水産製品を一斉に輸入禁止にすると明らかにしました。米当局は、インドネシア人らが当初説明された業務とは全く違う内容の労働を課せられ、賃金不払いも横行していたことを理由に挙げています。

その後も、新疆ウイグルでの人権侵害に関わった疑いがあるとして、太陽光パネルの材料などを生産する中国企業5社、ハイテク監視の技術などを持つ中国企業14社などが貿易の制裁対象に追加されました。そして、米議会上院は2021年12月、新疆ウイグル自治区で生産された商品の輸入を全面的に禁止するウイグル強制労働防止法案を可決しました(2022年6月施行)。同法は、企業などに新疆ウイグル自治区における強制労働によって生産されていないことを証明することを義務づけ、それを証明できなければ米税関・国境警備局が輸入を停止できると定めています。

サプライチェーンで人権侵害が行われていないか?

こういった状況により、企業内では新疆ウイグル産の品目が絡んでいないかどうか、取引先や調達先を含み自らのサプライチェーンで人権侵害のケースがないかどうかを厳重にチェックする動きが強まっているように思います。筆者周辺の企業でもその動きが増えています。

冒頭で述べたように、来年以降、台湾情勢を巡り米中の対立がいっそう激しくなる可能性があります。台湾有事と新疆ウイグルの人権侵害は別の問題のようにもみえますが、米国が中国へ持つ懸念事項であることは同じです。

要は、台湾問題で対立が激しくなると、米国は圧力対策の一環としてウイグル問題でも制裁の範囲を拡大させてくる可能性もあります。企業は来年もこの問題から目が離せないでしょう。

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