
小学館マンガワン公式YouTube『ウラ漫』が全動画を非公開。『常人仮面』原作者性加害事件と編集者の成田卓哉氏出演動画の影響、編集者タレント化の功罪を解説。
小学館マンガワン『ウラ漫』が全動画非公開、制作会社代表が声明発表
小学館の漫画アプリ「マンガワン」の公式YouTubeチャンネル『ウラ漫』が、2月27日、全動画を突如非公開とした。
『ウラ漫』は、小学館が運営する無料マンガアプリ「マンガワン」編集部の日常を公開するドキュメンタリー型YouTubeチャンネル。編集者の日常業務や打ち合わせ風景、作家との関係性などを赤裸々に映し出し、漫画制作の舞台裏をエンターテインメントとして成立させた点が評価されていた。登録者は約15.4万人に到達し、大手出版社編集部の裏側を可視化するスタイルのパイオニア的存在だった。
このチャンネルの制作を手掛けているのが、制作会社「Sync Creative Management」。密着ドキュメンタリー制作を得意とし、「ウラ漫」「進撃のノアch」の立ち上げ・制作、「PRODUCE101 JAPAN」「THE ROLAND SHOW」の制作などの実績がある。
Sync Creative Management代表の行澤風人(なめさわ・かぜと)氏は今回の事件を受け、2月27日にX(旧Twitter)上で声明を発表。
「編集部全体を撮影するドキュメンタリーという映像の性質上、被害に遭われた方の心情を最優先に考え、ウラ漫として制作した全ての動画を先ほど非公開とさせていただきました。配信再開の予定はございません。」
と説明し、
「本チャンネルの存在が被害に遭われた方を苦しめていたことを重く受け止めております。」
と謝罪している。
2月27日時点では、チャンネル上には連載漫画のPV等のみ(おそらく「ウラ漫」企画ではない制作物)が残っていたが、3月1日現在は動画が0本と、跡形もなく消えている。
性加害事件の逮捕者を別名義で原作者起用し、『常人仮面』連載
小学館マンガワン性加害示談事件は、作品そのものの論評を超えて、現在出版業界全体に衝撃を与えている重大な炎上事件だ。問題の中心にいるのは、『堕天作戦』を執筆していた漫画家・山本章一氏。同氏は、過去に通信制高校の講師として在学中の生徒に対して性的暴行を行い、児童買春・ポルノ禁止法違反の罪で2020年に逮捕・略式起訴され、罰金刑を受けていたことが判明している。
この事実を受けて2022年10月に『堕天作戦』の連載はいったん中止されたが、編集部は同じ人物がペンネームを変えた別名義「一路一(いちろ・はじめ)」として、同年に新連載『常人仮面』をマンガワンでスタートさせた。編集部側は当初、原作者が山本氏と同一人物であることを公表していなかった。
そして今回、SNSや報道で元の逮捕歴や性加害疑惑が拡散されると、読者や同誌連載作家から批判が噴出。小学館は『常人仮面』の配信・単行本出荷を停止し、「原作者の起用判断や確認体制に問題があった」と公式に謝罪した。
担当編集・成田卓哉氏は『ウラ漫』の人気出演者
そして、判決文や複数の報道によると、2021年5月頃から被害者・作者・マンガワン編集者・成田卓哉氏を含むLINEグループで示談交渉が行われていたとされる。
示談の提示条件は、作者側が示談金150万円を証書作成後1営業日以内に支払う代わりに、被害者が小学館媒体での連載再開を認め、中止要求を撤回し、本件の口外禁止(守秘義務)と今後の接触禁止に同意するという内容だったと報じられている。
この交渉経緯が明らかになり、編集部の関与や判断の妥当性に疑問の声が広がった。
担当編集成田氏は『ウラ漫』の人気出演者でもあった。動画内ではたびたび「マツモトキヨシ元社長の息子」という出自に触れつつ、体重100kg超の体格に親しみやすい顔立ち、ライブ現場に通い詰めるほどの地下アイドルファン、ホラー映画好きといったアンバランスな個性が視聴者の関心を集め、編集者ながら独特のキャラクター性で人気を博していた。可愛らしいマスコット的な雰囲気もあったため、今回いわゆる「もみ消し」とも言える行為の可能性に、衝撃を受けたウラ漫ファンも少なくないだろう。
『ウラ漫』は「編集部密着ドキュメンタリー」という性質上、担当編集者のパーソナリティや制作現場の様子を積極的に公開していた。そのため、動画の存在自体が議論の対象となった形だ。
舞台裏を映し、編集者をタレント化するメリット・デメリット
『ウラ漫』は、出版業界における編集者タレント化の先駆けだった。
編集者が前面に出ることで、読者は作品だけでなく「誰がどうやって作っているのか」にも興味を持ち、ブランドロイヤリティは高くなる。それと同時に、有望な漫画家・原作者の目にも留まりやすくなり、雑誌全体のブランド力および売上向上に寄与するメリットがある。実際に、「ウラ漫」は小規模ながら熱狂的なファンコミュニティを生み出していた。
そんな、「編集者がブランドになる時代」が到来していた一方で、可視化は両刃の剣でもある。編集者の顔と人格が透明化することで好意が集まるが、同時に個人への嫌悪感がその担当作品や出版社全体への不買につながる可能性もある。今回の騒動は、そのリスクを浮き彫りにした。
「編集者は裏方へ」は解決策か、それとも隠蔽体質の強化か
「やはり編集者は裏方であるべきだ」との声も根強いが、筆者はそれは短絡的だと考える。
なぜなら、そもそも企業が社会通念上まっとうな運営を行いトラブルを未然に防ぎ、万一の問題発生時には迅速かつ誠実な対応を取る体制があれば、社員の露出・タレント化それ自体が直接致命傷になることはない。
「編集者が表に出ていたがために騒ぎが大きくなった、今後は控える」という判断は、会社のリスクマネジメントではあるが、ともすると透明性を失い、隠蔽体質を増強することにもなりかねない。
出版業界“可視化時代”の分岐点
今回の『ウラ漫』全動画非公開は、編集者タレント化の転換点、出版社YouTube戦略の再考、リスクマネジメントの見直しという三つの意味を持つ。
だが何より優先されるべきは、被害を訴えた当事者の心身の回復である。
そのうえで、小学館がどのような説明と再発防止策を提示するのかを、業界全体が注視している。
透明性か、沈黙か。出版業界は今、大きな分岐点に立っている。
事態の収束と、小学館の真摯な対応、そして被害を受けた方の回復を願う。



