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歓楽街の帝王・森下グループ「マリン」全店閉店の怪 総工費10億円の宮殿を捨ててまで撤退する理由

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森下グループ、ソープランド全店閉店

1月30日午後9時、列島を縦断するソープランドチェーン『マリングループ』が、たった一通のLINEメッセージでその歴史に幕を下ろした。運営するのは、かつて新宿・歌舞伎町のあらゆる利権を飲み込み、「史上最も成功した闇紳士」と呼ばれた男が率いる森下グループだ。

 

総工費10億円をかけた豪華店舗で有名なマリン宮殿 水戸店なども惜しげもなく捨て、数百人の女性を路頭に迷わせてまで、なぜ帝王は逃亡を選んだのか。

その深層には、業界を震撼させる「スカウト組織・ナチュラルの摘発」という外圧と、帝王が恐れた「2006年の悪夢」の再来があったのではないか。

「ヘアアイロン返して!」行き場を失った女たち、笑うしかない男たち

 

「ふざけんなって感じです。昨日まで『週末頑張ろうね』って言ってたのに、いきなり『21時で閉店』ですよ? 寮に住んでる子は『明日出ていけ』って言われて泣き崩れてます」

憤りを隠せないのは、関東の『マリン』系列店に勤務していたキャストのレイナさん(仮名・24歳)だ。彼女のスマホには、1月30日21時に届いた「死刑宣告」とも言える業務連絡が残されていた。《本日の21時をもちまして資金難により全店閉店の運びとなりました》という、あまりに無機質な一文とともに。

現場の混乱は凄まじい。SNS上には、「待って、私まだ店に高いシャンプーとヘアアイロン置きっぱなしなんだけどw 取りに行けないとか詰んだ」「今月の給料どうなんの? 資金難って嘘でしょ、先週あんなに混んでたのに」「寮追い出されたらホームレス確定。誰か助けて」といった、突然職場を奪われた女性たちの悲痛な叫びが溢れかえっている。

 

一方で、このグループを長年利用してきた客たちの反応は、どこか冷めていて、それでいて哀愁が漂う。

「俺の貯めたポイントカード、ただの紙切れになるのか。供養してくれ」「水戸のマリン宮殿、10億円かけた城だったんだろ? 一回くらい“落城”させに行きたかったな(笑)」「『資金難』って(笑)。森下グループに限ってそれはない。回収終わったから損切りしただけだろ。相変わらず逃げ足が速すぎる」。

客たちが口を揃えて「資金難などあり得ない」と断言する理由。それは、バックにいる運営母体が、あまりに巨大すぎるからだ。

 

年商500億円との噂も新宿・渋谷を支配した「歓楽街の帝王」

マリングループを率いるのは、通称「森下グループ」。その名は、夜の世界で生きる者にとって、恐怖と畏敬の対象であり続けている。かつて一世を風靡したテレクラ『リンリンハウス』、マンガ喫茶の代名詞『マンボー』、個室ビデオ『金太郎』、そしてインバウンド客を熱狂させた総工費100億円とも言われる『ロボットレストラン』。さらには、歌舞伎町のシメの定番『博多風龍』まで、これらすべてが森下グループのブランドと言われている。

その他にも新宿や渋谷など繁華街の不動産を数多く持つ会社としても有名であり、現在は運営の「白鳳ビル」の社名でも語られるが、多くの人の記憶にある名前は「新宿ソフト」という社名だろう。

最盛期の年商は350億とも500億円とも囁かれ、そのビジネスモデルは「夜のゆりかごから墓場まで」と恐れられた。

というのも、2006年の摘発以前、彼らの戦略は徹底していた。歌舞伎町や渋谷などの入り口にある「無料案内所」で客を捕まえ、自社系列のキャバクラや風俗店に送り込む。遊び疲れた客は系列のホテルやビデオ店で休ませ、最後は自社のラーメンを食わせて帰す。

「夜の街で落とす金は、すべて森下が回収するビジネスモデル」。そう言わしめた、まさに「史上最も成功した闇紳士」による帝国である。

実際に、中核企業「株式会社白鳳ビル」の決算公告(令和3年3月31日現在)を見れば、その実力は一目瞭然である。

 

【株式会社白鳳ビル 貸借対照表要旨】資産合計:約395億円利益剰余金:約258億円

約400億円もの資産を持ち、250億円以上の内部留保を積み上げる企業が、地方店舗の運転資金に困るはずがない。では、なぜ昨年オープンしたばかりの総工費10億円の旗艦店『マリン宮殿 水戸店』までもドブに捨てて、即日撤退を選んだのか。

事情通が指摘する「スカウト集団・ナチュラル」摘発の余波

事態が急変したのは、閉店2日前の1月28日。茨城の系列店『マリン千姫』に警察の家宅捜索(ガサ入れ)が入ったことが発端だ。 ある業界事情通は、昨今の情勢と絡めてこう指摘する。

 

「警察は今、スカウトグループ『ナチュラル』や『トクリュウ』と呼ばれる匿名・流動型犯罪グループの資金源解明に躍起になっている。マリングループは表向き自社求人を謳っていたが、裏でこれら組織からの供給ラインがあったのではないか。1月28日のガサ入れは、単なる風営法違反の摘発ではなく、組織犯罪の『本丸』へ迫るための強制捜査だった可能性が高い」

しかし、百戦錬磨の森下グループが、単なる捜査の「流れ弾」程度で、ドル箱である全国21店舗をすべて手放すとは考えにくい。そこには、より根深い構造的な急所が存在したのではないか。

20年前の古傷と「大家ビジネス」の限界

 

森下グループを語る上で避けて通れないのが、2006年の逮捕劇だ。当時、歌舞伎町のビルを違法風俗店に改造し、荒稼ぎしていた森下景一氏は、風営法違反で逮捕・起訴された。東京地裁が下した判決は「懲役6ヶ月、執行猶予5年」。さらに不法収益として約7,000万円の「追徴没収」が言い渡されるという、異例の厳しいものだった。 この際、森下氏は「歌舞伎町の性風俗事業の完全撤退」を条件に仮釈放されたという経緯がある。

あれから20年。森下氏は再び歌舞伎町に舞い戻っていた。登記情報によれば、歌舞伎町の名店『バルボラ』の運営法人は「有限会社熱海湯河原観光開発」。その代表取締役欄には、ハッキリと「森下景一」の名が記されている。

当然、警察当局もこの事実は以前から把握していたはずだ。それでも今まで黙認されてきたのは、森下氏側が巧みな「防御壁」を築いていたからだという見方が有力だ。

 

「森下氏は、自らが代表を務める『株式会社ハウジングジャパン』などで物件(資産)を所有し、それを形式上、別の運営実態に貸し出す『大家』のポジションをとっていたと推測される。これならば、店舗で違法行為があっても『私は貸していただけ』という主張が可能になり、資産そのものは守られる」(経済ジャーナリスト)

かつて巨大風俗チェーン「オレンジグループ」が、運営と資産管理を複雑化させながらも実質的支配を暴かれて壊滅した事例がある。森下氏はその轍を踏まぬよう、資産(不動産・営業権)を法的に自らの名義で確保しつつ、運営リスクを切り離すスキームを構築していたのだろう。

「泳がせ」から「没収」へ フェーズが変わった瞬間

 

しかし、1月28日のガサ入れは、その均衡が崩れたことを意味していた。 警察はもはや、「大家」という言い訳を聞くつもりはない。そう悟った瞬間、帝王の脳裏をよぎったのは、20年前の悪夢、「資産の没収」だったのではないか。

現在、警察や検察は、組織犯罪処罰法を駆使し、犯罪収益の没収を徹底的に行っている。もし、今回の捜査で「大家業の実態は偽装であり、実質的な経営者は森下氏である」と認定されれば、どうなるか。 風営法違反にとどまらず、グループ全体の資金、さらには「犯罪収益により得た」とみなされる膨大な不動産資産までもが、凍結・没収の対象になりかねない。

「400億円の資産を守るためには、10億円の店舗など安い手切れ金だ」 即座に全店舗を閉鎖し、「事業実体」そのものを消滅させる。そうすることで、警察が踏み込むべき現場を物理的に無くし、資産への延焼を食い止める。これは、パニックによる逃走ではなく、極めて冷徹な防衛戦だったと言える。

 

帝王が去った後の静寂

かくして、マリングループ21店舗は一夜にして消滅した。「資金難」という公式発表は、捜査の手をかわすための煙幕であり、最後に放たれた壮大なブラフだったのだろう。

今回の撤退劇は、昭和から平成、令和と続いた夜の街のグレーゾーンが、コンプライアンスと組織犯罪対策という強力な外圧によって、もはや成立しなくなったことを象徴している。10億円を投じた宮殿は、主を失い、ただの巨大な空き箱となった。

路頭に迷った女性たちの嘆きを置き去りにしたまま、歓楽街の帝王は、守り抜いた巨万の富と共に、深い闇の奥へと姿を消していった。

しかし、これで本当にいいのだろうか。

 

ソープランドという、ある種「警察の管理下」にあるグレーゾーンを力ずくで潰せば、行き場を失った女性や客はどこへ流れるのか。 向かう先は、よりアンダーグラウンドな違法風俗や、個人間のパパ活、あるいは海外売春といった、警察の目が届かない危険な領域だ。「生かさず殺さず」で管理下に置くことで保たれていた均衡が崩れれば、かえって治安は悪化し、女性たちが犯罪被害に遭うリスクは高まる。

かつて暴力団排除条例でヤクザを表社会から完全に締め出した結果、実態の掴めない半グレやトクリュウが跋扈し、凶悪犯罪が増加している今日の社会と同じ轍(さてつ)を踏むことになりはしないか。

人間は、清流だけで暮らせはしない。陰と陽のように、社会には必ず表と裏がある。浄化という正義の名の下に裏から目を背けても、裏社会が消滅するわけではない。むしろ、誰も実態を把握できない混沌(カオス)が広がるだけだ。

10億円の宮殿は主を失い、廃墟となった。だが、そこにあった欲望と生活の受け皿が壊された今、夜の街にはより深く、冷たい闇が広がろうとしている。

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寒天 かんたろう

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ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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