
「先生の代わりに、AIが生徒を教える時代が来るのではないか」。
そんな不安と期待が交錯する教育実験が、いま台湾で静かに進んでいる。
現地報道によると、台湾では近年、AIを授業準備や学習支援に活用する実証的な取り組みが、学校や教育団体単位で広がっている。
AIが生徒の理解度を分析し、つまずきやすいポイントを可視化する。教師はその情報をもとに指導の手厚さを調整する。あくまで主役は教師であり、AIは「補助役」にとどまる設計だ。
教師の負担を減らし、学力差を見える化する
台湾で注目されているのは、AIの役割が「教えること」ではなく、「支えること」に置かれている点だ。
テストの採点、教材作成、生徒の進捗管理。これまで教師が一人で抱えてきた作業をAIが肩代わりし、その分、生徒と向き合う時間を増やすという発想である。
特に期待されているのが、学力格差への対応だ。AIは日々の学習データを蓄積し、理解が遅れている生徒を早い段階で可視化する。教師が“気づいた時には手遅れ”という事態を防ぐための補助線として機能する。
一方で、現地でも懸念は根強い。「AIが示す評価基準が、教育を画一化するのではないか」「教師の裁量が狭まるのではないか」。効率化の裏側にあるリスクをどう制御するかは、実証実験の大きな論点になっている。
「導入」ではなく「実験」が進んでいる
誤解してはならないのは、台湾の全公立学校でAIが一斉に導入されているわけではない点だ。実態は、自治体、学校、非営利団体などが関わるパイロット(実証)型の教育実験が積み重なっている段階にある。
台湾では、教育現場にAIをどう組み込むべきかを探るため、教師向けのガイドライン整備や研修、AIリテラシー教育を含むプロジェクトが進行中だ。生徒がAIを学習ツールとして利用している割合や、教師がどこまで関与しているかについても、調査が行われている。
つまり、台湾は「AIを入れる」と決め切ったのではなく、試しながら、測りながら、教育との距離を探っている段階にある。
期待されるのは「学力差の可視化」
こうした取り組みで最も期待されているのが、学力差への対応だ。AIは日々の学習履歴を蓄積し、理解が遅れている生徒を早期に把握することができる。教師が経験や勘に頼ってきた部分を、データで補助するという発想である。
台湾では、都市部と地方、家庭環境による学習格差が日本以上に顕在化している側面があり、AIはその是正に役立つ可能性があると見られている。
日本は「デジタル化」から先に進めていない
では、日本の現況はどうか。日本でもGIGAスクール構想により、1人1台端末環境は整備され、デジタル教材や学習アプリは広く使われている。
しかし、台湾のように「AIが教師の業務を補助する」という設計まで踏み込んだ例は限られている。
多くの場合、AIは教材の一部、あるいは学習ツールの延長線にとどまり、教師の仕事そのものを構造的に支える存在にはなっていない。
文部科学省も、AI活用については慎重な立場を取り続けており、「最終的な判断は教師が行う」「教育の責任は人にある」という原則を繰り返している。
結果として、日本の教育AIは「使ってはいるが、踏み込まない」状態にある。
台湾が先に動けた理由
台湾が日本より一歩先に実験を進められた背景には、教育を国家戦略として捉える姿勢がある。少子化や教師不足という課題は日本と共通だが、台湾はAIを「将来の補助線」として位置づけ、検証を優先している。
また、AIリテラシーそのものを教育のテーマとして扱い、「使うかどうか」ではなく「どう使うか」を議論の俎上に載せている点も特徴的だ。
問われるのは「AIを入れるか」ではない
台湾の事例が日本に突きつけているのは、「AIを導入するか否か」という二者択一ではない。
問われているのは、AIに何を任せ、何を人が担い続けるのかという設計思想である。
教師の負担を減らし、学力差を見える化するために使うのか。それとも、教育の多様性を守るため、あえて使わない領域を残すのか。
台湾の教室で進む静かな実験は、近い将来、日本の教育現場にも同じ問いを投げかけるだろう。
AIは教師を奪う存在なのか。それとも、教師を支える存在なのか。
答えは、まだ定まっていない。



