
警視庁は1月21日、国内最大規模の違法スカウトグループ「ナチュラル」のトップ、小畑寬昭(おばた・ひろあき)容疑者(40)を公開手配した。
2022年の1年間だけで約44億5000万円を売り上げたとされる巨大組織「トクリュウ」の頂点。警察が異例の顔写真公開に踏み切った背景には、逮捕直前で逃げられた警察の焦りと、組織の“不死身”ぶりがあった。
「あの人がニュースに出るとは…」
「まさか『会長』の顔が、全国ニュースで晒される日が来るとはね……」
歌舞伎町の喫茶店。スマートフォンのニュース画面を見つめながら、深いため息をついたのは、かつてナチュラルで幹部を務めていた元スカウトのX氏だ。 画面に映る、短髪で強面(こわもて)の男。右肩から腕に竜の刺青を入れたこの人物こそ、裏社会で「木山兄弟」の兄として恐れられる小畑容疑者その人である。
「僕らの間では本名の小畑より、『木山』の通称が絶対でした。カリスマ性のある兄と、組織を完璧に管理する弟。この双子の兄弟が作り上げたシステムは、スカウトというより、もっと冷徹な『軍隊』に近かった」
X氏は周囲を警戒しながら、巨大組織の内情を語り始めた。
弟は「元・消防士」…鉄の規律の正体
なぜ一介のスカウト集団が、構成員1500人、提携店4000店舗という巨大帝国を築けたのか。その秘密は、参謀役である「弟」の異色の経歴にあるという。
「実は双子の弟は、昔、神奈川県内の消防署で働く消防士だったんです。人命救助をしていた地方公務員が、いつの間にか兄と手を組み、夜の街で人を沈める仕事のトップに立っていた。笑えない話ですが、ナチュラルの異常なまでの統率力は、この弟の経験がベースになっています」(X氏)
X氏によれば、組織図は機能別に細分化され、徹底した報連相(ホウレンソウ)と、違反者への容赦ない制裁(ペナルティ)が存在した。「不祥事を起こせば『詰め』が入る。その厳しさは、まさに体育会系の規律そのものでした」
女を競売にかける「スぺ」と「アプリ」
規律だけではない。彼らは独自のアプリ『Chat alpha』を開発し、女性を“商品”として徹底管理していた。
「身長引く体重の数値を『スぺ(スペック)』と呼び、女性をランク付けします。そのデータを全国の風俗店に一斉送信し、オークション形式で最も高い紹介料を出した店に落札させる。女性の意思なんて関係ない。高値で売れればそれでいいんです」
アプリには「ウイルス対策課」という項目まであった。「ウイルス」とは警察のことだ。「捜査員の顔写真や、覆面パトカーのナンバーを共有し、組織ぐるみで捜査を攪乱(かくらん)していました」(同前)
警察内部からの「情報漏洩」と逃亡
しかし、今回最大の謎は、小畑容疑者が逮捕直前に姿を消したことだ。警視庁は今年1月、強制捜査に踏み切ろうとしたが、もぬけの殻だった。
「警察内部に協力者がいた、という噂は本当でしょう。実際、ナチュラルのメンバーに捜査情報を漏らしたとして、警視庁の警部補が逮捕されています。カメラの位置情報まで漏れていた。小畑会長が逃げ切れたのも、こうした“内通者”の手引きがあったからに違いない」(社会部記者)
潜伏先は「海外」か、それとも「灯台下暗し」か
44億円を飲み込んだ“木山”は今、どこにいるのか。犯罪者プロファイリングに詳しい、元警視庁科学捜査研究所の研究員はこう分析する。
「小畑容疑者は、右肩の竜の刺青など特徴が顕著で、国内で普通の生活を送ればすぐに通報されます。普通に考えれば、潤沢な資金を使って警察の手が及びにくいドバイや東南アジアなどの海外へ高飛びするケースが定石です。彼らは経営者的な側面が強いので、海外に拠点を移してビジネスを継続しようと考えるでしょう」
しかし、同氏は「もう一つの可能性」も指摘する。
「彼らは警察内部の情報すら握っていたとされる組織です。捜査の手の内を完全に把握しているならば、逆に出国リスクを冒さず、国内の『灯台下暗し』とも言える場所に潜伏している可能性もあります。絶対に警察が踏み込めない協力者の庇護下にあるタワーマンションの一室や、逆に人目につかない地方の限界集落の別荘などです。弟が元消防士という点からも、危機管理能力は極めて高く、計画的な逃亡劇と言えます」
警察の追跡をあざ笑うかのように姿を消した“木山”。その行方について、犯罪心理学の分析に続き、現場を知り尽くした二人のプロフェッショナルが、さらに生々しい逃亡シナリオを提示する。
【探偵の視点】「民泊を転々」Nシステムを回避する移動手段
長年、人探しや潜伏調査を行ってきた都内のベテラン探偵・齋藤まこと氏は、警察の捜査手法を熟知した上での「裏のかき方」を指摘する。
「警察はまず、交通機関や宿泊施設の利用履歴、クレジットカードの使用状況を洗います。当然、彼らはそれを知っている。絶対に自分や身内の名義は使いません。私が睨むのは、彼ら自身の管理物件でしょうね。女名義の物件などは相当数おさえているハズです。移動すること自体がリスクとなりますから、都内に潜伏しているのではないでしょうか」
さらにA氏は、移動手段についても言及する。
「幹線道路のNシステム(自動車ナンバー自動読取装置)は脅威ですが、協力者の車を何台も乗り継いだり、裏道を熟知していれば回避は可能です。あるいは、全く逆の発想で、整形など完璧に変装した上で、堂々と新幹線や高速バスといった公共交通機関を使っているかもしれない。警察の裏をかく、大胆な行動力を持っている男たちですから」
【ジャーナリストの視点】地方都市の「協力組織」が匿っている
一方、長年アンダーグラウンドの世界を取材してきた実話誌系ジャーナリストで本誌ライターでもある松本祐一氏は、組織力とカネの力に注目する。
「44億円もの資金力は絶大です。ナチュラルのネットワークは歌舞伎町だけでなく、全国の主要都市に及んでいる。警察のマークが厳しい東京や大阪を離れ、地方都市にある協力関係の半グレ組織や、彼らの息がかかった風俗店の寮などに匿われている可能性は十分にあります。例えば、北関東や東北、九州の地方都市です。カネさえ積めば、喜んで場所を提供するアウトローはいくらでもいますから」
さらに松本氏は、裏社会の複雑な力学も指摘する。
「彼らは過去に暴力団と揉めた歴史もあるが、今回は逆に、莫大なカネを払って強力な組織の庇護下に入っている可能性も否定できない。もしそうなら、警察も手出しが難しい組事務所の関係先などに潜伏していることもあり得る。まさに『木を隠すなら森の中』です」
海外高飛び、灯台下暗しの国内潜伏、地方組織の庇護。様々な憶測が飛び交う中、警察は威信をかけて包囲網を狭めている。警察の威信をかけた追跡は続く。トップ不在の中、今日も夜の街では、彼らが作ったアプリの通知音だけが鳴り響いている。
【情報提供先】 小畑容疑者に関する情報は以下へ。
●警視庁暴力団対策課:03-3506-8787
●警視庁板橋警察署:03-3964-0110



