
冬の寒さが深まるほど、甘みを増すはずのホタテが、今年は市場から姿を消しつつある。青森・陸奥湾では養殖ホタテの大量死が相次ぎ、へい死率は9割を超えた。背景にあるのは、記録的な猛暑による海水温の上昇とみられている。
この異変は産地だけでなく、都内の飲食店、そして広島の牡蠣養殖にも波及している。いま、冬の味覚を支えてきた海で何が起きているのか。
冬の味覚が消える 市場から姿を消した「青森産ホタテ」
冬の寒気が深まるほど、甘みを増すはずのホタテ。その“常識”が、いま大きく揺らいでいる。
都内の飲食店では、仕入れサイトから青森産ホタテが消えた。
「いつもなら当たり前に載っている青森のホタテが、今年はないんです」
そう話すのは、青森出身の店主だ。味、価格、安定供給、すべての面で“推し”だった青森産。だが今季は、刺身での提供を諦め、冷凍ホタテを使った加熱メニューに切り替えざるを得なかったという。
この異変の震源地が、全国有数の産地・陸奥湾である。
「なんも生きてない」陸奥湾で広がる静かな惨状
青森県の養殖ホタテの約99%を生産する陸奥湾。
漁師が引き揚げたかごの底には、殻を閉じたまま動かないホタテが折り重なる。
「全然ダメだ。なんも生きてない」
言葉少なにそう語る漁師の視線の先にあるのは、壊滅的としか言いようのない光景だ。
県の調査によると、養殖2年目の新貝の平均へい死率は2025年11月時点で93.3%。観測開始以来、最悪の数字となった。
背景にあるとみられているのが、記録的な猛暑による海水温の上昇だ。ホタテは高水温に弱く、耐えきれずに死滅した可能性が高い。
「養殖業そのものが危機」知事が国に支援要望
この事態を受け、青森県の宮下宗一郎知事は、水産庁を訪問し、国の支援を強く求めた。
「全湾で壊滅的な状況。養殖業が始まって以来、初めての危機だ」
要望の柱は、広島県などで相次いだカキの大量死に対して適用された「対策パッケージ」と同様の支援を、ホタテにも拡充すること。
水産庁側も「カキに限らず、ホタテでも該当する支援策は活用できる」としており、今後の対応が注目される。
広島の牡蠣も9割死滅 同時多発する“海の異変”
この危機は、青森だけの問題ではない。
広島県の養殖場では、今シーズンのカキの8~9割が死滅したとの報告が相次いでいる。生き残ったカキも身入りが悪く、出荷に耐えないものが多い。
生産者からは「このままでは廃業せざるを得ない」という切実な声も上がる。
水揚げが回復するには、少なくとも3年以上かかるとみられ、地域経済への影響は長期化する可能性が高い。
問われる“温暖化時代の養殖業” 再生への道筋は
専門家は、海水温上昇に加え、プランクトン量の変化や海の栄養バランスの変化など、複合的な要因が養殖環境を揺るがしていると指摘する。
短期的には資金繰り支援や原因究明が不可欠だが、根本的な解決には、高水温に耐性のある品種開発、養殖海域の分散、沖合や低水温域の活用など、構造的な転換が避けられない。
ホタテと牡蠣。日本の食文化を支えてきた二つの冬の味覚が、同時に危機に陥っている現実。
それは、気候変動が「遠い未来の話」ではなく、すでに私たちの食卓を直撃していることを突きつけている。



