
アパレル企業が「服」ではなく「場所」を売る。創業の地・福井で見せたのは、ファッションを通じた社会課題の解決だ。多様な市民と地元産業が交差する、持続可能なコミュニティの在り方を読み解く。
ダイバーシティ&インクルージョンを体現する、越前発の市民参加型ファッションショー
2025年12月20日、福井県越前市文化センターにて開催された「YourStage.」は、単なるブランドの新作発表会という枠組みを大きく超えた。ステージに立ったのは、4歳から75歳までの公募モデル100名である。そこには、障がいの有無や国籍、性自認、あるいは世代といった既存の境界線は存在しない。全国、そして地元福井から集まった多様な顔ぶれが、一つの舞台を分かち合った。
ブランド「axes femme」を展開する株式会社アイジーエーは、2022年よりこのプロジェクトを全国で継続してきた。演出を担うムッシュ高橋氏によるウォーキング指導など、未経験者が自信を獲得していくプロセスを丁寧に設計することで、ファッションを単なる装飾から「個のエンパワーメント」を促す装置へと昇華させているのである。
産業廃棄物が舞台を彩る。地域経済を循環させる独自のエコシステム
本イベントの独自性は、演出の細部に宿る「地域リソースの再定義」にこそある。他社のショーが豪華なセットを新設し、終演後に廃棄する慣習とは対照的に、アイジーエーは地元の産業遺産や端材をクリエイティブな素材として徹底的に活用した。
ファインモード社から提供された廃材布がステージを飾り、武生特殊鋼材の鉄材が重厚なエントランス看板へと生まれ変わる。さらに、五十嵐製紙の越前和紙を使用し、地元クリエイターTERAU氏が仕立てた「和紙のドレス」や、武生商工高校の生徒が手掛けたリメイクアイテムの披露は、サーキュラーエコノミーの具現化そのものである。地域の製造業が抱える端材処理や技術継承という課題に対し、ファッションという華やかな出口を提供することで、地域経済の新しい循環モデルを提示した意義は大きい。
情緒的価値を地域に根付かせる、アイジーエーの経営哲学
なぜ、一アパレル企業がこれほどまでに地域を巻き込み、熱狂を生めるのか。その背景には、境界線を溶かして誰もが主役になれる場を作るという、揺るぎない経営哲学がある。ゲストプロデューサーを務めたSOIL&”PIMP”SESSIONSのSHACHO氏は、多様な舞台を経験してきた立場からも、この挑戦的な場に関わることの新鮮さと刺激を高く評価している。
アイジーエーが提供しているのは、物理的な洋服という「モノ」ではなく、地域住民が自らのアイデンティティを再発見する「体験」である。創業の地でこの熱量を生み出すことは、企業の存在意義を地域社会の不可欠なインフラとして定義し直す作業に他ならない。
ビジネスリーダーが学ぶべき関係性資本と地方創生のヒント
「YourStage.」の成功から学ぶべき教訓は、ステークホルダーをファンへと変貌させる共創の力である。現代の消費者は、製品の機能性以上に、企業の姿勢や社会的意義に共鳴して購買行動を選択する。アイジーエーは、伝統工芸士や学生、アーティスト、および一般顧客を「出演者」や「協力者」として深く関与させることで、極めて強固な「関係性資本」を築き上げた。
顧客を消費の対象ではなく表現のパートナーとして捉え、地域に眠る廃棄物や休眠技術をブランドの物語へと再構築する。サステナビリティを抽象的な概念に留めず、泥臭いまでの地域交流とクリエイティブの力で具現化する同社の歩みは、人口減少社会における地方企業の生き残り戦略として、極めて示唆に富んでいる。



