
日本の伝統食材であるこんにゃくを科学の視点で再定義し、食感の制約を突破する。テクスチャ・エンジニアリング・スタートアップのNINZIAが提唱するのは、健康と備蓄を日常に溶け込ませる、我慢のいらないサステナビリティだ。
独自技術が導くフェーズフリーな備蓄の新しい形
2025年12月26日、農林水産省が推進する「食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT」において、株式会社NINZIAの「NINZIA欧風カレー」が、家庭備蓄の市場拡大に寄与する産品として「FOOD SHIFT セレクション」に入賞した。本アワードは、日本の食糧問題を解決し、持続可能な食のあり方を提示する産品を表彰するものだ。
同製品は、独自開発のこんにゃくペースト「NINZIA PASTE」を活用し、完全植物性でありながら、肉のような満足感のある食感を実現している。最大の特徴は、湯煎や水を一切必要とせず、開封してそのまま食べられる点にある。単なる非常食の枠を超え、日常の食卓を彩る一品としての完成度が、無理のないローリングストックを可能にする解決策として高く評価された。
素材そのものを再定義するテクスチャエンジニアリングの優位性
NINZIAが競合他社と一線を画す最大の要因は、こんにゃくを固めきらずにペースト状に保つ独自素材を保持している点にある。
従来のプラントベースフードや防災食は、味や食感の妥協を余儀なくされるケースが多かった。特に動物性油脂を使用しない場合、常温ではコクが不足しがちである。しかし、NINZIAはこんにゃくの食物繊維であるグルコマンナンの物性を緻密にコントロールすることで、レトルト加工の熱に耐える強固なゲルの質感を生み出した。また、植物性ゆえに常温でも脂が固まらず、災害時の冷えた状態でも滑らかな口当たりを維持できる。この冷めても美味しいという特性は、ライフラインが途絶した有事において、機能面のみならず心理的な支えとなるだろう。
食の制限を解放しウェルビーイングを高める哲学
NINZIAの根底には、食の制限をテクノロジーで解消し、人々のウェルビーイングを高めるという強固な哲学が存在する。代表の寄玉昌宏氏は、食事を単なる栄養補給ではなく、純粋な楽しみであると定義している。
世界には糖尿病やアレルギー、宗教上の理由などで食の制限を持つ人々が数多く存在する。同社がこんにゃくに着目したのは、それが日本古来のヘルシー食材であると同時に、加工次第で無限の食感を創出できるポテンシャルを秘めているからだ。伝統的な素材を現代のエンジニアリングで再構築し、誰もが同じテーブルで同じ美味しさを共有できる世界。それが彼らの目指すあたらしい食のカタチである。
隠れ食品ロスを解消する見せる防災から学ぶべき経営視点
本件からビジネスパーソンが学ぶべきは、社会課題を「義務」から「価値」へと転換する視点である。現在、自治体や企業が抱える備蓄品の約4分の1が、賞味期限切れで廃棄されているという「隠れ食品ロス」が深刻化している。
これに対しNINZIAは、オフィスに置いておきたくなる「見せる防災」を提案する。日常的には社食や軽食として活用し、消費した分を補充する。この自然な循環が成立するのは、製品が防災専用としてではなく日常食として魅力的だからに他ならない。防災を特別な義務ではなく、日常の豊かさの延長線上に置く。NINZIAの歩みは、社会課題の解決と事業の成長を、妥協なき美味しさという一点で結びつけることの重要性を教えてくれる。



