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高齢者ドライバーの免許返納が進む裏側 地方で問われる事故防止と生活の質

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高齢ドライバーの免許返納
DALL-Eで作成

高齢ドライバーによる重大事故の報道が続くなか、運転免許の自主返納が安全対策として注目を集めている。しかし、その呼びかけが都市部では比較的受け入れられやすい一方で、地方では異なる現実が横たわる。車が生活インフラの中心となっている地域では、免許返納が「移動の自由の喪失」や「社会参加の断絶」につながりかねない。事故抑止のための合理的な判断が、別の社会問題を生む──その構造的矛盾が浮かび上がっている。

地方では車が“足”であり“生活そのもの”

地方に広がる住宅地、公共交通の未整備、バス路線や鉄道の減便。こうした環境のもとでは、自家用車は単なる移動手段ではない。買い物、通院、地域行事への参加、知人宅への訪問など、生活のほぼすべてが車に依存している高齢者も多い。

 

免許返納が招きかねない社会的断絶

このような地域で免許を返納すれば、移動の自由だけでなく、人との接点や社会参加の機会が急激に減少する恐れがある。外出頻度の低下は孤立や抑うつ状態を招き、身体機能や認知機能の低下にもつながりかねない。事故防止を目的とした返納が、別の形のリスクを生む点に、地方特有の深刻さがある。

返納は進むが、支援制度には地域差

2024年の運転免許自主返納件数は42万7,914件に上り、その約6割を75歳以上が占めた。身体機能や判断力の低下への不安が、返納を後押ししている。一方、地方では生活インフラの制約から、返納をためらう声も根強い。

 

移動支援の実態と“制度格差”

自治体によっては、タクシー料金の補助や福祉バスの割引など、免許返納者向けの支援策を導入している。しかし、その内容や利便性には大きな差がある。過疎地や地方都市では、公共交通網そのものが乏しく、「支援があっても使いにくい」「そもそも選択肢が存在しない」といった状況も少なくない。こうした制度格差が、地方の高齢者にとって返納判断をさらに難しくしている。

返納後に指摘される健康リスク

運転をやめた高齢者は、運転を続ける人に比べ、要介護認定を受けるリスクが高まる可能性があるとの研究結果も示されている。特に地方では、移動手段の喪失が外出頻度や社会参加の減少に直結しやすく、その影響が健康や生活機能の低下として表れやすい。

 

地方ほど求められる返納後のケア

都市部に比べ、地方では返納後の代替手段や生活支援の有無が、生活の質を大きく左右する。免許返納は単なる行政手続きではなく、その後の暮らしを見据えた包括的な支援と一体で考える必要がある。

返納後を見据えた「多面的な支援」の具体像・課題・解決策

項目概要支援制度を進める上での課題課題への解決策
代替交通手段の確保デマンド交通、乗り合いタクシー、地域循環バスなどで日常移動を支える。利用者が少なく採算が合わない。運転手不足が慢性化。予約制・共同利用型への転換や、貨客混載、自治体直営と民間委託の併用で持続性を確保する。
交通費負担の軽減タクシー補助券やICカード給付で経済的負担を抑える。補助上限が低く実用性に欠ける。財政負担が重い。通院・買い物など目的限定型補助に切り替え、重点支援とする。
買い物・通院支援移動販売、買い物代行、送迎付き通院支援を整備。利用対象や回数制限が厳しく、生活実態と合わない。介護保険外サービスや民間事業者と連携し、柔軟な利用枠を設ける。
外出・社会参加の促進地域サロンや行事参加を通じ孤立を防ぐ。参加意欲の低下や心理的ハードルが高い。「支援」ではなく楽しみや役割を前面に出した場づくりで参加動機を高める。
健康・介護予防支援運動教室や見守り活動で機能低下を防止。医療・介護・交通の縦割りで連携が弱い。地域包括支援センターを軸に横断的な支援調整を行う。
家族・地域との連携家族負担に依存しない支援体制を構築。家族構成や地域力の差が大きい。行政が最低限の生活移動を保障する仕組みを明確化する。
返納前からの伴走支援返納後の生活を事前に設計し納得感を高める。相談が返納直前に集中する。高齢者講習や免許更新時と連動し、早期相談を制度化する。
地域特性に応じた柔軟運用地域事情に応じた制度設計を行う。国制度が画一的で自治体裁量が小さい。国は最低基準のみ示し、自治体選択型の運用へ転換する。

安全と生活の質、その両立の難しさ

免許返納は事故リスク低減に有効な手段であることは否定できない。ただし、都市と地方では前提条件が大きく異なる。事故防止のみを軸に返納を促せば、地方の高齢者や家族に新たな負担を強いる結果になりかねない。

「安全」と「尊厳」をどう両立させるか

免許返納は交通安全のための施策である一方、移動の自由は高齢者の生活の質や尊厳と深く結びついている。特に地方では、返納後の暮らしをどう支えるかという視点が欠かせない。

 

高齢ドライバー対策の次の段階へ

高齢ドライバー対策は、返納を促すことで完結しない。返納後に続く生活、いわば“第2の人生”を社会としてどう支えるのか。その問いに向き合うことが、今後の政策に求められている。

 

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SHOEHORN くつべらマン

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児童養護施設の職員。特に中学~新卒年齢の若者の生活・医療・福祉・自立支援に従事している。勤務時間外では、様々な職業の方へ取材活動を実施しており、大人になる若者たちへ情報を提供している。

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