町家宿泊から「泊まる・食べる・遊ぶ」を束ねる総合体験へ

株式会社エイジェーインターブリッジは、京都・金沢・飛騨高山を中心に、約100棟の町家宿泊施設を展開する。主軸となるのは「町家宿泊体験事業」「タビナカ体験事業」「インバウンドプラットフォーム事業」という3領域で、いずれも訪日客が日本文化を深く体感できる仕組みを核に据えている。
運営する一棟貸し町家は、単なる宿泊施設ではなく、町家の文化と共にその土地のローカルを体感できる“宿泊体験”スタイルだ。伝統工芸、食文化、自然体験などを組み合わせ、旅の全体が「日本文化を知る時間」になる構成を重視している。
新木弘明社長は「泊まる・食べる・遊ぶをリアルとデジタルでつなぎ、旅の価値そのものを設計したい」と語る。宿泊と体験の融合は競争の激しいインバウンド市場において、同社の大きな強みとなっている。
外経験が形づくった“外から見た日本”への視点

新木氏の原点は16歳で渡ったオーストラリアでの生活だ。約13年滞在し、5つ星ホテルでベルボーイからキャリアをスタートした経験は大きい。多文化が交錯する環境で働く中、日本文化の価値を「外から見て」理解する視点が養われた。
「旅館に泊まったことがあるという友人が、とても誇らしげに語ってくれた。その表情が忘れられなかった」。その体験が、後に町家事業を構想する土台となった。
帰国後は東京のゲストハウスで働き、宿泊者の声を集めながら「日本文化そのものを体験したい」という根強いニーズを把握。2009年、エイジェーインターブリッジを設立し、京都で1棟目の町家運営を始めた。
現場から積み上げた事業基盤 1棟から100棟へ

創業初期はハウスキーピングから予約対応、マーケティングまで、すべてを新木氏自らが担った。現場を知り尽くした運営は、のちに自社でリノベーション企画・設計まで一気通貫で手がけるスタイルにつながった。
京都での成功を起点に金沢、飛騨高山へと拠点を広げ、「町家宿泊」という新たなカテゴリーを市場に定着させていった。地方都市の空き町家の活用にもつながっており、観光産業の新しい形を示した形だ。
多様性がイノベーションを生む “模倣しない”戦略
新木氏が重視するのは、多様性と柔軟性だ。オーストラリアでの経験から、多様な人材が交わる環境にこそ新しい発想が生まれると考えている。大手企業の方法をなぞるのではなく、ニッチ市場に価値を創る戦略に注力する姿勢も一貫している。
「異なる背景を持つ人と協働することで、新しいアプローチが生まれる。宿泊は文化の交点であり、そこで生まれる体験価値こそが事業の核心だ」。
コロナ後のインバウンド市場と「町家」の存在感

世界的に訪日旅行への関心が高まるなか、同社はMACHIYA INNS & HOTELSを旗艦ブランドとして展開。さらに地域体験のデジタルプラットフォーム「MACHIYA LOCALS」を通じ、食文化や伝統工芸の体験もオンラインで提供する。
今後は運営棟数の拡大と、体験コンテンツの横展開を加速させる方針だ。 宿泊・飲食・文化体験をリアルとデジタルで結び、旅行全体をシームレスにする「町家版D2Cモデル」とも言える構想が見えてくる。
“文化を通じた架け橋に” 創業者が抱き続ける原点

最後に、新木氏はこう語った。
「町家は日本の文化や価値観が凝縮された空間。これを守りながら国内外の人に体験していただくことに使命を感じています。文化を通じて日本と世界の間に架け橋をつくりたい」。
創業から16年。1棟の町家から始まった挑戦は、文化と観光をつなぎ合わせる新たな産業モデルへと成長しつつある。



