
冬の夕暮れが早く落ちる12月、街に灯るイルミネーションが濡れた舗道に映り込む。そのなかで、全国に874店舗を展開する丸亀製麺が「クリスマスイブの夜は閉店します」と発表した。
外食チェーンが一年で最もにぎわう商戦期に休業を選ぶ。この意外な決断が、いま静かな波紋となって広がっている。
クリスマスイブの午後3時30分、店の灯りが落ちる
丸亀製麺は3日、12月24日の営業をランチのみに限定し、午後3時30分以降は一部店舗を除き休業すると発表した。普段なら湯気が立ちのぼり、客が途切れず流れ込む夕方の時間帯。しかし今年は、その光景が消える。
この決断の背景には、同社が推進する「心的資本経営」の存在がある。
丸亀製麺は近年、従来の店長制度を刷新し、代わりに 「ハピカンオフィサー制度」 を導入した。これは、“ハピネス(幸福)”と“カンパニー(会社)”を組み合わせた社内概念で、従業員の働きがいや心理的安全性を、店舗運営の根幹に位置づけるための新制度である。従来の「管理中心の店長像」ではなく、働く人の心の状態を整える役割を担う店舗責任者が必要だという考えから生まれた。
こうした取り組みの延長線上に位置づけられるのが、今回の「丸亀ファミリーナイト」だ。
同社は「1年に1度の大切な日に、従業員がこの日ならではの温かい時間を過ごしてほしい」と説明し、顧客に理解を呼びかけた。
SNSには称賛の声が吹き上がる
発表がXに掲載されると、コメント欄には驚きと称賛が一気に広がった。
“めちゃめちゃいい取り組み”
“なんてすばらしい会社だ”
“従業員の皆さんが楽しいクリスマスを過ごせますように”
街の喧騒から離れ、家庭に戻る従業員の姿を想像する声も多く寄せられた。
ある投稿者は「昔は正月に営業している店を探す方が大変だった。季節のメリハリを取り戻す動きだ」と記し、別の投稿者は「罪悪感を持たずに休める日を会社が作る意味は大きい」と指摘した。
さらに、「欧米では24日と25日はレストランが閉まっていて当然。日本もやっと世界基準に近づいてきた」というコメントも目立つ。
“合理性”を冷静に読み解く声も
一方で、称賛だけではなく淡々と経営目線から評価する声もある。
「クリスマスイブの夜に、うどんを夕食に選ぶ客は少ない。人件費を含む運営コストを考えると、閉める方が合理的」
働く人のためという理念だけではない、冷静な市場分析としての理解も広がる。
この理念と合理性が一致した決断という視点は、今後ほかの飲食チェーンが追随する可能性を示唆している。
“年中無休社会”からの転換点となるのか
丸亀製麺の看板が、イブの夕刻に灯らない。
その光景は、かつての日本では当たり前の風景だった。正月も大型連休も、店が閉まり、家族が食卓を囲む時間が何よりも尊ばれていた。
しかし現代の外食産業は、年中無休が常態化し、働く人の生活リズムまで変えてしまった。
今回の取り組みは、そんな社会の空気を少しだけ揺らした。
「働いて働いても大事だが、大切なものは目に見えない」
というコメントのように、今回の施策は生活の質という曖昧だが確かな価値を問い直している。
丸亀製麺の静かな決断は、企業の在り方だけでなく、日本の働き方への新たな視点をもたらすかもしれない。



