AI研修・空き家活用・着物アップサイクル──100BANCH第101期の3プロジェクトが始動

未来創造拠点「100BANCH」は、アクセラレーションプログラム「GARAGE Program」の第101期メンバーとして3件のプロジェクトを採択した。
同プログラムは、35歳未満の挑戦者に実験の場とメンター支援を提供し、3カ月間の短期集中で社会実装に向けた検証を進める仕組みだ。今回採択されたのは、「ikigAI」「ReFamily」「Kimono Edition」という異なる領域の取り組みである。
AIによるキャリア支援、空き家問題への新アプローチ、伝統素材の高付加価値化──いずれも未来を意識した視点が貫かれている。

AIビジョンボードで“自分の軸”を可視化　若手のキャリア課題に挑む「ikigAI」

急速に変化する社会のなかで、「自分に合う働き方が分からない」という声が若年層を中心に広がっている。ikigAIは、こうした課題にAIビジョンボードで向き合うプロジェクトだ。
AIとの対話を通じ、価値観・理想像・強みを可視化し、自己理解と他者理解を同時に深める点に特徴がある。外部から“正解”を教える従来のキャリア教育とは異なり、参加者が自ら目標設定を行うことで行動意欲を高める仕組みだ。
企業研修や大学授業としての活用も進みつつあり、心理的安全性の高いチーム形成や、若手の自律的キャリアデザインを後押しするアプローチとして注目されている。

空き家問題の新アプローチ　“記憶の可視化”で活用を進める「ReFamily」

空き家問題は全国で深刻化しているが、物理的な老朽化以外に「手放しにくい心理的な理由」が影響しているケースも多い。ReFamilyは、この“心のモヤモヤ”に着目した取り組みだ。
写真や生活道具などに残された記憶を丁寧に整理し、家族の物語として可視化することで、所有者が前に進むための心理的負担を軽減する。空き家を単なる不動産ではなく「思いが循環する場所」として捉え、地域や次の住み手へと橋渡しする仕組みづくりを進める。
物件の再利用を進めながら、家族の記憶という無形資産の継承まで視野に入れるアプローチは、空き家政策に新たな可能性を示す。

着物帯を高付加価値へ再生　フランス装釘×日本の伝統が融合する「Kimono Edition」

大量の休眠在庫や廃棄が課題となる着物の帯地を、フランスの装釘文化「ルリユール」と掛け合わせ、一冊の工芸品へと再生するのがKimono Editionである。
欧州では、書物は知識を蓄える道具であると同時に、美術品としての価値を持つとされてきた。この思想を日本の伝統素材へ応用し、帯地を用いた表紙で本やノートを再装釘することで、すべて一点物のアートピースとして蘇らせる。
素材を廃棄物ではなく“資源”として捉え直し、高付加価値化する点で、アップサイクルの理想形ともいえる。文化の継承と循環を同時に成立させる挑戦として期待が高まっている。

未来を100年先まで描く拠点──100BANCHが支援する“社会実験”の意義とは

100BANCHは、「100年先の世界を豊かにする」ことを掲げ、若い挑戦者に場所と機会、そして専門家の伴走を提供してきた。これまでに1185件の応募から390件を採択し、24時間利用可能な環境でプロジェクトを育てている。
採択プロジェクトに共通するのは、社会課題を効率性だけで捉えるのではなく、文化、記憶、内面といった“目に見えにくい価値”まで対象にする視点だ。第101期の3プロジェクトも、この哲学を体現している。

AI可視化・空き家の記憶継承・着物工芸再生から見える“未来社会のヒント”

今回の3つの挑戦に共通するのは、「見えない価値を可視化する」という姿勢である。
AIが内面を可視化し、空き家では記憶を可視化し、着物では素材の価値を可視化する。
社会の複雑さが増すなかで、埋もれている価値を見つけ出し、形に変える力は、これからの時代に一層求められるはずだ。
第101期の活動が、100年先の社会を形づくる小さな種として育っていくことを期待したい。