
香港北部の高層住宅団地で26日午後に発生した大規模火災は27日朝になっても消火が続き、死者は44人に増えた。279人と連絡が取れず、消防は高温で近づけないフロアもあり、救助活動は難航している。外壁の補修工事で組まれた竹足場と養生シートが炎を一気に吸い上げた可能性が高く、香港社会が抱える住宅密集のリスクが露呈した。
香港メディアによると、事件に関連し警察は過失致死容疑で男3人を逮捕した。
団地7棟が同時に燃え上がった夜
香港北部の住宅地に立つ八つの高層住宅のうち、七棟が赤く染まった。火はひとつの棟に留まらず、外壁を這い上がるように隣の棟へと移り、夜空へ向けて巨大な炎の柱を作り出した。何階で炎が起きたのかすら判別しにくいほど、ビル全体が黒煙と火の粉に包まれ、住民の叫び声が風にかき消されていった。
建物の谷間に吹く強い風が炎を押し上げ、わずか数十分で広範囲が火の海となった。その光景は、都市の中心部ではなく山林火災の現場を見ているかのようで、周辺住民も状況を把握できぬまま外へ飛び出した。
火を加速させた“竹足場と養生シート”の構造
火元は外壁沿いの竹足場とみられている。香港では伝統的な工法として竹足場が使われるが、乾燥すると非常に燃えやすい。補修工事中だった現場では、竹の骨組みを覆う緑色のシートが強く風に揺れ、それが火の通り道を作ったように見えた。
足場は建物の高さと同じだけ組まれ、外壁に密着する形で立ち上がっていた。火がついた瞬間、炎は竹を伝って一気に階上へ駆け上がり、黒煙を巻き込みながら建物全体へ広がっていった。落下した足場の破片が別の棟に引火した可能性もあり、火災は単一棟ではなく“団地全体の連鎖炎上”へ変貌した。
外壁補修工事の作業員らの不始末が火種となった疑いもあり、警察は過失致死容疑で男3人を逮捕した。詳しい状況は調査中だが、生活しながら工事を行う香港の住宅事情がリスクを高めたことは明白だった。
暗闇の階段を駆け下りた住民たちの“逃走”
火災警報が鳴った直後、住民は薄暗い階段へ一斉に押し寄せた。停電で灯りはほとんどなく、非常灯がぼうっと照らすだけだった。高齢者を支えながらゆっくり降りる者もいれば、火の粉を恐れて泣き叫ぶ子どもを抱えて走る者もいた。
外に出たとき、熱風が顔を打ち、頭上から灰が絶えず降ってきた。道路には救急車が並び、毛布を肩にかけて震える住民の隣で、酸素吸入を続ける人の姿があった。
「今夜どこで眠れば良いのか、分からない」
避難した住民は口々にそう漏らし、家族の行方を探す声が夜通し途切れなかった。
消防が近づけない高温のフロア 消火は難航
火の勢いは、外壁だけでなく建物内部にも深いダメージを与えた。高温で崩落の危険があるフロアには消防が接近できず、一部の住民は建物の中に取り残されたまま連絡が取れていない。外壁が崩れ落ちる音が時折響き、それが新たな延焼を生む“悪循環”を招いていた。
救助隊は風向きが変わるたびにホースの角度を調整し、立ち上る黒煙の向こうにわずかな光を見つけようとする。しかし、現場は刻一刻と条件が変わり、完全な鎮火にはまだ時間がかかる見通しだ。
香港に広がる同型の高層住宅と潜在リスク
今回の団地は1980年代に建てられた住宅で、老朽化による外壁補修が必要だった。しかし、同じ条件を抱える団地は香港に無数にある。限られた土地に住民が密集し、高層住宅が林立する環境の中で、大規模な修繕工事を居住者が生活しながら進めることは珍しいことではない。
竹足場が組まれた高層住宅は、香港の街を歩けば至るところで目に入る。今回の火災が例外的な事故ではなく、同様のリスクを抱えた建物が都市全体に存在することを示している。高齢化が進む住民の避難の困難さや、火災保険の普及率の低さなど複数の要因が重なり、火災時の被害はどうしても大きくなりやすい。
都市の効率と安全性のどちらを優先すべきか。香港社会は、これまで棚上げにしてきた問いへ向き合わざるを得なくなっている。
明らかになる人的要因 逮捕者3人の存在
火災原因の調査は進行中だが、外壁補修に関連した人為的な過失が疑われている。警察は過失致死容疑で男3人を逮捕し、出火に関わった可能性を調べている。作業現場での喫煙や消し忘れた吸い殻など、複数の仮説が語られているが、いずれも工事環境に潜む安全管理の甘さを示すものだ。
建物の老朽化、竹足場という素材の特性、密集住宅という構造、そして工事の管理体制。複数の要素が積み重なった結果、今回の大規模災害は起きた。原因解明と再発防止が急務となっている。



