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中国がパンダ貸し出し停止示唆 街の声はまさかの『影響ゼロ』…上野の衝撃現場ルポ

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中国がパンダ貸し出し停止示唆 街の声はまさかの『影響ゼロ』…上野の衝撃現場ルポ
上野動物園 HPより

中国がパンダの貸し出し停止を示唆した。上野動物園では二頭の返還が迫り、半世紀続いた「パンダのいる日本」が終わる可能性が現実味を帯びている。だが現場を歩くと、報道とは裏腹に、街の空気は驚くほど静かだった。“影響ゼロ”と言い切る声まで漂っている。

 

パンダ貸し出し停止報道と上野動物園の返還問題

20日、中国・北京日報が「日中関係の緊張が続けば、日本へのパンダ貸し出しを停止する可能性がある」と伝えた。SNSでは「日本からパンダが消える」という見出しが駆け巡り、しばし騒然とした。それでも上野の街を歩くと、観光客や地元の人たちの反応は拍子抜けするほど落ち着いている。

ANNニュースによると、国内のパンダは上野動物園のシャオシャオとレイレイの2頭のみで、来年2月の返還が決まっている。このまま新しい貸し出しが途絶えれば、日本は1972年以来の“パンダ不在”となる。

テレビ朝日の「報道ステーション」では大越健介氏が「パンダに影響してほしくない」と語り、日刊スポーツはTBS北京支局長・立山芽以子氏の話として「日中韓首脳会談に合わせてパンダ贈呈を発表する構想があった」と伝えた。しかし、情勢悪化でその計画も霧散したという。

ひとつの動物が、外交の温度を測る指標のようになっている。

日中関係悪化でパンダ返還問題が再燃した理由

今回の緊張のきっかけは、高市早苗首相の国会答弁だった。
「台湾有事は存立危機事態になり得る」と述べたことで中国側は強く反発し、日本への渡航自粛、海産物の停止措置など対日姿勢が急速に厳しくなった。

政治の空気が揺れると、その波が文化交流にまで広がってくる。
「パンダは関係ないはずなのに」――そう思いながらも、両国関係の温度が下がるたびにパンダ外交が揺れる構図は、これまでも繰り返されてきた。

上野動物園でパンダが見られる風景は、実は“政治的な安定”の上に成り立っていたと言える。

パンダ返還の仕組みと契約の実態

 

パンダは中国・四川省の山岳地帯に生息し、野生個体は世界で約1864頭とされる。希少性の高さから中国は“国家の宝”として厳格に管理し、1950年代から友好国に貸し出してきた。仕組みは各国で共通しており、所有権はすべて中国にある。動物園は年間約百万ドル、日本円で15〜16億円ほどの協力金を支払い、契約は10年単位。日本で生まれた子どもも2〜4歳で中国に返還する取り決めがある。

飼育には見えない負担も多い。竹の安定調達、温湿度を一定に保つ設備、専門獣医の常駐などを含めると、一頭につき年間3000万〜5000万円の維持費が必要になる。華やかな人気とは裏腹に、パンダは国家間の契約と膨大な手間によって支えられている動物である。

それでも各国が受け入れてきた理由は明快だ。圧倒的な象徴性と集客力が、その負担を上回ると判断されてきたからだ。日本で「パンダが見られる日常」は、外交と契約が静かに織り上げてきた、きわめて特殊な環境の上に成り立っている。

米国・欧州で進む“パンダ返還ドミノ”

パンダ外交の揺れは日本だけではない。米国では米中関係の悪化を背景に、主要な動物園からパンダが次々と返還された。名物パンダとの別れを惜しむ市民の涙が全国放送される一方、背景には政治の冷え込みがちらついた。

欧州では、関係改善の象徴としてパンダが貸与された例もある。台湾では、贈呈自体が政治論争の対象となった。パンダは世界各地で、単なる動物以上の存在として扱われている。

日本の貸し出し停止示唆は、この地政学的再編の延長線上に位置している。

パンダ不在が観光・消費に与える損失の試算

上野動物園でパンダが公開された年、来園者は40万人以上増加した。増えたのは園の入場者だけではない。動物園を出た人々は自然とカフェに立ち寄り、美術館に足を延ばし、アメ横を散策する。上野という街全体が、パンダを中心に動くひとつの循環を生んできた。年間20〜40億円規模の消費があったとされるのは、その象徴だ。

動物園内に目を向ければ、パンダは維持費こそ年間3000万〜5000万円と高額だが、その分を大きく上回る集客力を発揮してきた。和歌山アドベンチャーワールドでは繁殖が続いた時期に50〜80億円の経済効果が生じた年もあり、「最も経済合理性の高い動物」と呼ばれる理由がここにある。

この流れが止まる影響は決して小さくない。街を歩く人の流れが変われば、地域経済はすぐに反応する。上野が失うものは、数字以上に、街のリズムそのものかもしれない。

上野の衝撃現場ルポ(街の声は“影響ゼロ”)

 

しかし実際に上野を歩くと、報道の騒がしさとは違う温度が広がっていた。
動物園の正門前で声をかけると、若い父親が「正直、パンダ見に来たわけじゃないんです。子どもはシマウマとゾウが好きで。いなくなっても別に困らないですね」と淡々と語った。

並ぶ人々の列を眺めながら、都内から来たという女性は「いつもパンダは一時間待ちでしょう。うちは並ぶの嫌だから最初から見ない。返っちゃっても影響ゼロですよ」と笑った。
年配の女性は「そりゃ寂しいけれど、動物園ってパンダだけじゃないのよ」と言い、園を後にする親子は「今日もパンダはスルーした。混むから」と肩をすくめた。

街頭で聞く声の多くは、驚くほど冷静で、どこか醒めている。
“パンダ不在=壊滅的打撃”という図式は、少なくとも現場の空気とは噛み合っていない。

その背景には、訪日客の目的が多様化し、上野がすでに美術館や博物館、商店街といった多層的な魅力を持ち始めている現実がある。街の中心はパンダだけではないという認識が、静かに広がっている。

パンダ不在がもたらす“静かなメリット”

パンダがいなくなることは確かに損失を伴う。しかし、動物園や自治体にとっては、これまでパンダに偏っていた予算や関心を見直すきっかけにもなる。老朽化した施設の改修や、他の動物の環境整備、新しい教育プログラムの充実など、遅れがちだった取り組みに資源を回せるという声も出ている。

動物福祉の視点でも、原産地に近い環境に戻ることはパンダにとって自然な選択ともいえ、必ずしも悪い話ではないという専門家の指摘がある。

観光の構造においても、「パンダ中心」の一極依存から脱し、上野という街が本来持つ多様な魅力を育て直す契機になる可能性がある。街のリズムは変わるかもしれないが、その変化が未来の強みに繋がることもある。

SNSの声ー影響は微々たるという見解もー

SNSをのぞくと、「生活にはほぼ影響しない」「観光はパンダだけで持っているわけじゃない」という書き込みが目につく。「むしろ行列がなくなって快適になる」という率直すぎる声もあり、涙の返還報道とは裏腹に、どこか醒めた空気が漂っている。

寂しさと冷静さ。その二つが奇妙に同居しているのが、今回の騒動の特徴だ。

今後の展開

 

上野の2頭が返還され、新たな貸し出しが止まれば、日本はしばらく“パンダ不在”の時間を迎える。
それが短い一時期なのか、長期化するのかは外交次第だが、街の声は意外なほど冷静だ。
そしてその沈黙の中に、上野がこれから変わっていくための余白が見え隠れする。

外交の風向きが変われば、再びパンダが戻ってくる未来もある。その日、日本はかつてとは違う視線で「パンダのいる日常」を受け止めることになるのかもしれない。

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ライター:

新聞社・雑誌の記者および編集者を経て現在は現在はフリーライターとして、多方面で活動を展開。 新聞社で培った経験をもとに、時事的な記事執筆を得意とし、多様なテーマを深く掘り下げることを得意とする。

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