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タケノコ王・風岡直宏――“裏年”を越えて山と生きる男

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風岡直宏氏
風岡直宏氏 Instagramより

テレビ番組『沸騰ワード10』(日本テレビ系)で話題を呼んだ「タケノコ王」こと風岡直宏(52歳)。ピンクのタンクトップに地下足袋、鍬までもピンクに染めた個性的な装いで、芸能人たちと共演し一躍人気者となった。しかしその素顔は、年間300日、約5000坪の竹林に通い詰める孤高の職人。放置竹林を甦らせ、希少な白子タケノコを量産し、地域を支える「循環型農業」の旗手でもある。

 

プロフィール――筋肉と忍耐がつくった職人の原型

静岡県富士宮市出身。身長約185センチ、体重約75キロの引き締まった体格。子どものころは痩せて内気で、昆虫採集ばかりしていたという。
「ガリガリでいじめられ、学校が苦手でした。でも映画『ロッキー』を見て“強くなりたい”と思ったんです」。
中学で筋トレを始め、高校では学級委員長から生徒会長に。やがて恋の挫折をきっかけに始めたトライアスロンで全国レベルの成績を収め、プロ選手となる。だが23歳でケガにより引退。24歳で始めたクワガタ・カブトムシの養殖販売が大ヒットし、年商3800万円を記録するも、詐欺被害で全財産を失った。
「どん底で気づいたのは、体を動かすことでしか生きられないということでした」。
その後、祖父の代から続く竹林を継ぎ、「タケノコで人生を立て直す」と心に決めた。

 

荒れた竹林を甦らせた“300日の肉体労働”

竹林は放置されると数年で荒廃する。日が差さず、通気が悪くなり、タケノコは細く曲がる。風岡はまず古竹を伐り、地面を均して光と風を通した。次に肥料を調整し、季節ごとの手入れを徹底した。
春は掘り取りと施肥、夏は草刈りと水分保持、秋は土を耕し、冬は枯竹を伐採して地温を上げる――その繰り返しを5年間、1年に300日以上続けた。
「自然に任せるのは放棄と同じ。人の手が入って初めて山が呼吸できるんです」。
今では裏年にも関係なく、毎年ほぼ同等の収穫を上げられる体制を築いた。手入れの時間は1日10時間。機械では入れない急斜面を鍬1本で掘り続ける。
「体力が資本。風邪をひいても山に行く。1日でも休めば土が変わるんです」。

 

白子タケノコ――地中に眠る“白い宝石”

風岡の名を全国に知らしめたのが、白子タケノコの量産だ。通常のタケノコの100本に1本しか採れない希少品で、1本3000〜5000円の高級食材。
「白子は光に当たる前に掘る。土のわずかな膨らみ、湿度、匂いで見抜く。鍬を浅く入れると一瞬で色がつく。掘るというより、地中からそっと“拾い上げる”感覚です」。
掘り上げた瞬間に冷却し、直売所に数時間以内に並べる。鮮度が命のため、遠方の注文はクール便で即日発送。収穫量は限られるが、その分、品質は徹底的に守る。
「白子は山がくれる“ご褒美”。丁寧に整えた年ほど、数が多い。だから努力がそのまま形になるんです」。
白子タケノコは口コミで評判を呼び、ミシュラン星付きの料亭や高級旅館が取引先となった。

 

“1億円掘った男”の真意――利益を山に還す循環構造

「タケノコで1億円掘った男」というキャッチコピーは、自ら仕掛けた宣伝だった。実際には年商の多くを竹林整備や地域活動に再投資している。
「うちの利益の3割は山の再生に使っています。竹チップは堆肥に、皮は燃料に、掘りかすは畑の土に戻す。山に出たものはすべて山に返す」。
この“ゼロ廃棄”の取り組みは地域にも波及し、周辺農家の若手が整備作業に参加。放置竹林が減少し、土砂崩れ防止や獣害軽減にもつながった。
「タケノコを掘ることは環境を守ること。農業じゃなく“環境業”のつもりでやっています」。
春の直売所には早朝から行列ができ、毎年数千人が訪れる。地域にとって、風岡の山は観光資源でもある。

 

王ではなく、ただの職人として

“タケノコ王”という呼び名に本人は笑う。「王様なんて呼ばれても、山の中じゃ僕が一番下っ端です」。
派手なピンクの姿で知られるが、実際の彼は無口で実直だ。「山は人を選ばない。努力を見ているだけです」。
白子タケノコの輝きの裏にあるのは、土と汗と、諦めない意志。
「僕が掘っているのはタケノコじゃなく、希望です。手を入れた分だけ、山は応えてくれる。それが僕のすべてです」。

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ライター:

千葉県生まれ。青果卸売の現場で働いたのち、フリーライターへ。 野菜や果物のようにみずみずしい旬な話題を届けたいと思っています。 料理と漫画・アニメが大好きです。

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