
一浪で中堅大学合格から「何が何でも早稲田へ」父の一言で人生が狂い出した
11月10日放送のフジテレビ系『ザ・ノンフィクション』にて、「12浪の早大生 38歳の就活~僕に内定をください~前編」として、12年の浪人生活を経て早稲田大学に合格し、現在38歳で“新卒就活”に挑む石黒さんの特集が放送された。
その人生の歯車が狂い始めたのは、実は“たった一言”からだった。
高校卒業後、一浪して中堅私立大学に合格した石黒さん。しかし、合格を報告した際に父親から返ってきたのは祝福の言葉ではなく、「お前、その程度(の大学)しか受からなかったのかよ」という冷たい一言だった。
その一言が胸に突き刺さり、石黒さんは“父を見返したい”一心で再び受験の世界へ。
以降、「大学は早稲田しか無い」とまで自分を追い詰め、生活のすべてを早稲田大学への合格に捧げ、12年間もの浪人生活を続けた末、30歳で念願の早稲田大学に合格した。
しかし、入学後も留年と休学を繰り返し、気づけば在学9年目。気づけば、同級生たちは社会でキャリアを積み上げ、石黒さんは「38歳・学部4年生」として“新卒枠”で就職活動を迎えることになった。
『ザ・ノンフィクション』が映した、“現実”と“孤独”
番組では、石黒さんが就職活動の準備を進める姿が密着された。カメラが捉えたのは、自己PR欄を前に固まる姿、面接練習で言葉に詰まる瞬間、そして“志望業界が定まらない”という迷いだった。
「自己PRを書こうとしても、一文字も浮かばない」
「やりたいことがない」
彼の口から出た言葉は、努力と後悔が交錯する痛切な叫びのようだった。
しかし、放送の中では準備不足・対策不足と感じる一面も。
締切間近のエントリーシートの作成に取り掛からない様子を見かね、スタッフが尋ねたところ、
「まだ今準備段階なんで。人に言われてやるもんかって思うんですよ 自分のタイミングで(やります)」
と言い返したり、エントリーシート応募に必要な証明写真を〆切直前に撮りにいったり、就活に詳しいサークルのOBに指導を頼むも、添削を頼まずに自己流のエントリーシートを提出してしまったり、といった行動が見られた。
もっと人を頼ったり自発的に行動すればいいのに……とつい筆者は思ってしまったが、これも12年にもおよぶ浪人生活という「長年の孤軍奮闘」の後遺症なのかもしれない。
SNS上で巻き起こる賛否両論
番組放送後、X(旧Twitter)や掲示板ではさまざまな意見が飛び交った。
「見ていてもどかしい場面もありつつも、プライドが邪魔して進められない感じとか「分かるなぁー!!」と思った。」
「大学に入るのがゴールで結局やりたいことは見つからなかったのかな?」
「8年かかっても卒業してるのは根性はあるよね。それを買ってくれる会社があるかどうか。」
「新卒の就職活動じゃなくて別のやり方を見つけた方がいいんじゃないか。自分を追い込む発想しかないのが辛い。自分がどんなことしてたら幸せなのかを感じてほしい。」
「長期で働いてもらう想定で35歳未満とかに制限してる企業もあるから、ただの新卒よりは厳しいよなぁ」
「バイトから認めてもらうのが一番」
肯定派は「努力の象徴」「ここまでやれるのはすごい」と称え、否定派は「戦略を間違えている」「新卒枠では無理だ」と現実的な意見を述べた。
一つのドキュメンタリーが、令和の「学歴信仰」「親(および他人)の期待・評価」「新卒一括採用」という日本社会の構造を浮き彫りにした格好だ。
“12浪・38歳”というキャリアブランクの現実
石黒さんのケースは、就職市場でいわゆる“多浪・長期在学”が抱えるリスクを象徴している。
● 年齢と新卒枠の乖離
企業が「新卒=若年層ポテンシャル採用」と定義している以上、38歳が同じステージに立つのは構造的に不利だ。履歴書を見た瞬間に「年齢」でフィルターがかかることも少なくない。
● “空白期間”の説明責任
12年の浪人と9年の在学期間。その間、何をしてきたのか。企業は「理由と成果」を求める。単なる“努力”ではなく、「得たスキル」「成長の証明」が必要とされる。
● “父の言葉”がもたらした呪縛
「もっといい大学へ」という父の価値観を優先した結果、社会経験ゼロで中年になってしまった。努力の方向が“内側”に閉じてしまうと、結果的にキャリアの可能性が狭まる、この点も番組が鋭く描いた部分だ。
就活における浪人・留年のデメリット
就職活動において、浪人や留年はその事実単体で不採用になる決定的要因ではない。むしろ、企業が注視するのは「その期間をどのように過ごし、何を得たか」という点だ。採用担当者は、その期間を「目的をもって過ごした成長の時間」と見るか、「行動や決断を先延ばしにした空白期間」と見るかで判断を変える。浪人・留年が長期化するほど「年齢による新卒枠とのズレ」「実務経験の欠如」「時間管理能力への疑念」が生じやすく、結果的に書類選考や面接で不利に働くことも多い。
一方で、浪人や留年が長期化するほど新卒としての扱いは難しくなり、特に「3浪」を超えるあたりからは採用現場で「第二新卒」や「キャリア転換枠」とみなされるケースも出てくる。その段階では、一般的な新卒枠での勝負よりも、社会人経験やスキル証明を前提にしたキャリア構築戦略への切り替えが現実的だ。
“普通の新卒就活戦略”では勝てないなら、どうすべきか?
社会人になるには、新卒一括採用の「正面突破」しか道が無い訳ではない。以下のような「迂回ルート戦略」も存在する。
- 「新卒枠」に固執せず、既卒・中途・契約社員・バイトなどの雇用形態にも応募し実績を積み、正社員を目指す
- 職種を成果可視化型(営業・CS・教育・BPOなど)に限定する
- 資格・ポートフォリオで実績を提示する
- リファラル(推薦)やOB経由の紹介で信頼の土台を築く
年齢を「弱み」ではなく「経験・粘り強さ」として語れれば、評価軸を転換できる可能性もあるのではないだろうか。
努力は尊い。しかし戦略がなければ報われない
38歳で“新卒就活”に挑むという極端な挑戦。その原点は、父の一言に縛られた青春と、社会への再挑戦の物語だった。だが、現実の採用現場では「努力」だけでは通用しない。
「どうして遅れたか」ではなく、「その遅れをどう活かすか」を語ることでしか、石黒さんの未来も、同じように“時間をかけてしまった人”の希望は見出せない。
予告によると「なりふり構わず就活に取り組む」という後編は、11月16日午後2時からフジテレビ系にて放送。石黒さんの奮闘をお楽しみに。



