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仙台育英サッカー部「全国大会出場辞退」 勝利の陰にあった“構造的いじめ” 名門が下した重い決断

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仙台育英高校 サッカー部
仙台育英学園 公式インスタグラムより(サッカー部「いじめ重大事態」についての一部)

冬の全国高校サッカー選手権を目前に、名門・仙台育英高校が下したのは「辞退」という異例の決断だった。
3年生部員が同級生から継続的な暴言などの「いじめ重大事態」に苦しんでいたことを受け、学校は部内全体に「構造的いじめ」が存在していたと認定。
宮城県大会を制した直後の辞退発表に、サッカー界と教育関係者に衝撃が走った。
勝利を重ねてきた強豪が直面した“人を育てる”という教育の原点。その舞台裏を追う。

 

 

冬の選手権、初めての辞退

全国高校サッカー選手権大会の開幕を前に、サッカー王国・東北を震わせるニュースが届いた。
宮城県大会を制し、37回目の全国切符を手にしていた名門・仙台育英高校サッカー部が、全国大会への出場を辞退する。

理由は「部内で発生したいじめの重大事態」。
学校は11月12日午前、公式サイトで発表し、「一部の生徒によるものではなく、部全体の人権意識の欠如による“構造的いじめ”があった」と認定した。
宮城県代表が選手権出場を辞退するのは、104年の歴史で初めてのことだった。

 

「うざい」と繰り返された言葉の暴力

いじめが始まったのは、3年前。
被害生徒は当時1年生。主に同級生数人から「うざい」「空気が読めない」といった暴言を繰り返し浴びせられ、次第に笑顔を失っていった。
2024年春には「抑うつ症状」と診断され、部活動への参加を断念。
サッカーを愛し、幼い頃から夢見てきた“あのピッチ”に立つことはできなかった。

それでも部は勝ち進んだ。
そして2025年11月2日、宮城県大会決勝。聖和学園を破り、2年ぶりの優勝を果たす。
歓喜に沸くスタンドの一角で、いじめを訴えたその生徒は、静かに目を伏せていたという。

 

校長が認めた「構造的いじめ」

決勝の前日、学校は保護者宛てに「いじめ重大事態報告に寄せる校長所見」を送信していた。
そこには、こう記されていた。

「部内の規律を理由に連帯責任の罰則が慣例化し、一部の生徒が集団から疎外された。顧問団を含めた指導体制に構造的な課題があった」

勝利の熱狂の裏で、学校はすでにこの問題に直面していた。
決勝後の記者会見で、監督が「全国に彼らを連れて行きたい」と笑顔を見せたその瞬間、学園内部では“出場辞退”をめぐる議論が静かに進んでいたのだ。

 

学校の謝罪「教育機関として慙愧に堪えない」

仙台育英学園が発表した声明は、異例の厳しさをもって綴られている。

「いじめを防止できず、被害に遭った生徒と保護者に多大な心理的苦痛を与えたことを深くお詫び申し上げます。当該生徒が幼少期から愛したサッカーを、本学園での課外活動によって“許しがたい競技”とさせてしまったことは、教育機関として慙愧に堪えません」

学校はこの発表と同時に、12月末までサッカー部の対外活動をすべて停止。顧問団への人権研修を実施し、全員面談を行う方針を示した。
また、全学約2000人を対象に「部活動におけるいじめの有無」を調査。必要に応じて追加調査を行うとしている。

 

被害生徒の“声”をどう守るか

「いじめ重大事態」は被害生徒の再訴えによって再び明るみに出た。
学校は昨年も一度調査を実施したが、十分な改善には至らなかった。
「訴えたのに変わらない」という無力感が、どれほど深い傷を残したか。

専門家は指摘する。
「強豪校ほど“勝利の文化”が組織の空気を支配しやすい。上下関係の固定化が起こり、違和感を抱いても声を上げられなくなる。今回の仙台育英のケースは、スポーツ教育全体が抱える構造的問題の象徴です」(教育評論家)

 

“強さ”の意味を問う

仙台育英はこれまで多くの名選手を輩出し、高校サッカー界の象徴的存在として知られてきた。
だが、今回の決断は「勝つこと」よりも「人を育てること」を優先した、苦渋の判断だった。

ネット上では「勇気ある決断」「被害者を守る姿勢を評価する」との声が相次ぐ一方で、「無関係の選手が気の毒」「顧問団の責任は重い」といった意見も上がっている。

勝利の歓声の裏に沈んだひとりの声を、どれだけの人が聞けていたのだろうか。
いま問われているのは、スコアの数字ではなく、「強さとは何か」という教育の根幹そのものである。

 

宮城県代表の行くへは?

全国高校サッカー選手権大会の宮城県代表は現時点で“空位”の見込み。
大会実行委員会が代替出場校を決定するか、枠を空けたまま開催するかを協議中だ。
104年の歴史で初の辞退。
その重みは、単なるサッカー部の問題を超えて、全国の教育現場に問いを突きつけている。

 

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ライター:

広告代理店在職中に、経営者や移住者など多様なバックグラウンドを持つ人々を取材。「人の魅力が地域の魅力につながる」ことを実感する。現在、人の“生き様“を言葉で綴るインタビューライターとして活動中。

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