
秋晴れの大阪総領事館前に、静かな緊張が走った。
中国の薛剣(せつけん)・駐大阪総領事が、高市早苗首相の「台湾有事」に関する国会答弁をめぐり、X(旧ツイッター)に投稿した言葉
「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」。
暴力的な表現は瞬く間に拡散し、日本政府は10日、中国側に外交ルートを通じて厳重抗議した。
投稿はすでに削除されているが、火種は消えていない。
発端は「台湾有事」答弁
7日、衆議院予算委員会。高市首相は、台湾情勢が緊迫した場合の日本の対応について、「状況によっては存立危機事態に該当する可能性がある」と答弁した。
これは、集団的自衛権の行使を視野に入れた発言であり、中国側にとっては極めて敏感な言葉だ。
翌日、薛剣総領事は朝日新聞デジタルの記事を引用し、自身のXに「その汚い首は斬ってやる」と書き込んだ。怒りの絵文字とともに添えられた投稿は、外交官としての一線を越える内容だった。
「暴言」投稿、波紋広がる
投稿は数時間のうちに削除されたが、スクリーンショットが瞬時に拡散。
「一国の首相への殺害予告ではないか」との批判が相次いだ。
ネット上では、「外交官として常識を欠く」「即刻ペルソナ・ノン・グラータ(国外退去)処分にすべき」といった声が続出した。
外務省関係者によると、日本政府は「極めて不適切な発言」として、中国側に強く抗議。
今回の表現がウィーン条約に反し、外交官の品位を損なうものだと指摘したという。
過去にも物議を呼んだ薛剣氏
薛剣総領事は、これまでもSNS上で強硬な発信を繰り返してきた人物だ。
2021年には「台湾独立=戦争。はっきり言っておく!」と投稿し、国内外から批判を浴びた。
2024年10月には「比例代表の投票用紙には『れいわ』とお書きください」と発信し、内政干渉とみなされて政府が抗議。
投稿は削除されたが、今回の暴言で再びその名が国内世論の俎上に載る形となった。
日本政府の対応と外交リスク
外務省内では、「単なる暴言」では済まされないとの声も上がっている。
ある外交筋は「外交官が一国の首相に暴力的発言をするのは、事実上の脅迫と同義。ペルソナ・ノン・グラータを発動すべき」と語る。
ただ一方で、日中関係の悪化を懸念する声も根強い。
台湾海峡の緊張が続く中で、外交上の衝突が経済や安全保障に波及する可能性も否定できないからだ。
高市首相をめぐる中国の警戒
高市首相は、就任以降、台湾との協力を積極的に打ち出してきた。
11月初旬には韓国で開かれたAPEC首脳会議で台湾代表・林信義氏と会談し、「実務協力の深化を期待する」と発信。
この投稿にも中国政府が即座に抗議しており、今回の薛剣氏の投稿はその延長線上にあるとみられる。
国際社会の視線
欧米メディアも今回の発言を報道し、「外交官による殺害示唆発言」として問題視している。
アジアの安全保障環境が緊張する中で、外交官の発言一つが国際世論を左右する時代。
SNS時代の「発信力」は、外交の武器にも刃にもなりうる。
外交の品格が問われる時
高市首相の答弁は「平和的解決を期待する」と前置きした上での安全保障論だった。
それに対し、武力を連想させる表現で応じた薛剣総領事の投稿は、日中関係の根底にある不信を浮かび上がらせた。
外交は言葉で成り立つ。
その言葉を選び間違えたとき、信頼は最も速く崩れる。
政府の抗議が一過性で終わるのか、それとも日中関係の転換点になるのか。注視が続く。



