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CSV経営で「社会課題解決の事業化」に成功のネスレ日本

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フリー画像 コーヒー
pixabayより

 

CSV経営とCSRの違い

企業の経営タイプのひとつに、CSV経営と呼ばれるものがある。

CSV(Creating Shared Value)とはアメリカで生まれた概念で、「共有価値の創造」という意味を持つ。アメリカの有名な経営学者であるマイケル・ポーター博士が提唱した、社会問題の解決と企業の経営活動に関する考え方とされる。

ポーター博士は、企業の社会貢献とは寄付や慈善活動を指すのではなく、社会性の高い事業活動によって社会問題を解決することであるとした。そうした活動によってこそ、企業は「社会価値」と「企業価値」を高められるというアプローチだ。

CSV経営の概念が生まれた背景には、企業の寄付や慈善活動では社会問題の解決が難しいという課題がある。この観点でよく比較されるのが、企業のCSRだ。

CSR(corporate social responsibility)とは、企業の社会的責任を意味する。企業は営利組織であり利益を追求する使命を持つが、消費者の健康や利益、環境保護など社会全体に対して配慮する責任を持つという概念である。

CSR活動として、製品の製造過程でのCO2排出削減や自社の得意分野に関する体験教室開催などを行っている企業もある。CSRは社会全体への配慮をする責任を持つが、CSVは事業活動を通して社会問題を解決する。CSVでは、企業も利益創出するという性質を持つということだ。

 

高齢化社会の課題解決に挑むネスレ日本の事例

CSV経営によって社会課題解決の事業化に成功しているのが、ネスレ日本だ。ネスレ日本は、2007年から「共通価値の創造報告書」を発行し、積極的にCSV経営を実践している。インタビュー『経営者の仕事はパーパスを提唱し、実現すること』(高岡浩三、DIAMONDD ハーバード・ビジネス・レビュー)でも、ネスレが開始したサービス「ネスカフェ コネクト」について、日本の高齢化問題にアプローチしつつ、それでいてビジネスとしての利益創出も大きい事業だと分析している。

「ネスカフェ コネクト」の特徴は、コーヒーマシン「バリスタ i(アイ)」と専用タブレットをセットすると、マシンに話しかけるだけでコーヒーを淹れられる、コーヒーを飲んだタイミングで特定の相手にLINEメッセージが自動的に送られるなどの機能が使えることだ。

コーヒーを淹れる機能に加えてメッセージ機能が付いた背景には、高齢化社会が進む日本において、離れて暮らす両親や祖父母の様子を気軽に知りたいという消費者のニーズがある。いわゆる高齢者の見守りサービスの一種としてコーヒーマシンが活用されたのは、非常にユニークなアイデアだ。

さらに同書では、ネスレが2018年1月から始めた「シニアスペシャリスト採用」を紹介し、雇用というかたちで高齢者のQOL向上に寄与していると指摘。

ネスレは、ネスカフェコネクトというサービスの提供、シニアスペシャリスト採用という採用活動を通して、日本が直面している高齢化社会の問題点にさまざまな側面から貢献しているのである。

 

CSV経営の社会問題に対する3つのアプローチ

CSV経営には、基本的な3つのアプローチがあると考えられている。

①製品・サービスと市場の⾒直し

自社の製品・サービスが、社会課題の解決や社会ニーズを含んでいるか。また、市場に合った価値を提供できているか。

②バリューチェーンの⽣産性の見直し

消費者のみならず、製品やサービスの産出に至るまでのプロセスで、社会問題解決に取り組んでいるか。たとえば原材料の調達や加工における労働問題にアプローチできているか。

③産業クラスターの開発

企業活動による効果が自社の利益獲得のみにとどまらず、幅広いステークホルダー(クライアント、地域経済など)に貢献できているか。

この3つのアプローチをネスレ日本の企業活動に照らし合わせると、全てクリアしている。ネスカフェコネクトでは高齢化に伴う孤独や健康問題の解決を図り、サービス提供プロセスではシニア人材の活用を図っている。

また、ネスレ日本の「共通価値の創造報告書」によると、「ネスレの事業活動における環境負荷ゼロを目指す取り組み」を掲げており、サステナビリティや公衆衛生改善から産業クラスターへの貢献を長期目標としている。

 

自社での完結を目指さない協働で社会問題解決を目指す

社会課題解決と企業の利益創出を同時に行うCSV経営は、サステナブルな社会においてひとつの理想形のようにも見える。しかし、CSV経営には弱点もある。一社が手がけるプロジェクトで社会課題を解決するのは困難だからだ。

たとえば貧困問題。不況や教育格差、昨今の新型コロナウイルスの影響など、貧困の原因は実に幅広く、複雑に絡み合っている。さらに地球温暖化などの環境問題は規模が大きく、ステークホルダーも多様になり、文化や宗教など配慮すべき事柄が多い。

そのため、CSV経営で創出する事業は自社で完結するのは難しく、関連企業や消費者一人ひとりとの連携が重要になる。問題の解決は一朝一夕にできるものではないから、長期的な戦略も必要だ。

ソーシャルビジネスと呼ばれるビジネス領域も注目されている。しかし、社会課題解決につながるアイデアは持っているが、資本や設備、人手が足りないなど各企業にも課題はある。

前述したネスレ日本では、代表取締役社長兼CEOの高岡氏がこう述べている。

「社長に就任した時から広報と相談し、外部への発信を心がけてきました。ステークホルダーにネスレという企業を理解してもらい、コーポレートブランドを構築することも、経営者の重要な役割だと考えているからです。」(『経営者の仕事はパーパスを提唱し、実現すること』より)

CSV経営に成功しているネスレ日本では、経営者が率先してブランディングに取り組んでいるのである。トップが舵取りをして進むべき方向を明確にすることで、社内外からの信頼獲得が期待できる。前述しているように、CSV経営に関する「共通価値の創造報告書」を発表していることも効果的だろう。

CSV経営活動の情報を外部に発信すると、パーパスやビジョンに共感する仲間を増やすことにつながる。課題や目指すところを共有する者同士で、技術や知見、ノウハウも共有すれば、より大きな課題・問題にチャレンジできる。

CSV経営は、持続可能な発展を目指す現代において、企業の枠組みを超えたビジネス創出のキーワードだ。社会が孕む問題や課題を共有し、解決にチャレンジすることで、ステークホルダー同士のつながりがより深く、有意義になることが期待される。

<書籍情報>

『経営者の仕事はパーパスを提唱し、実現すること』(高岡浩三、DIAMONDD ハーバード・ビジネス・レビュー)

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