
TBS「SASUKE2025」の収録中、お笑いコンビ「チョコレートプラネット」の長田庄平さん(45)が左足を剥離骨折した。全治3か月の重傷。それでも本人はユーモアを忘れず、SNSで「ご心配なく」と発信した。挑戦の代償と笑いのプロ意識。その背後に、“SASUKEという文化”が問いかけるものがある。
緊張が走ったファーストステージ
秋の朝、緑山スタジオの空に薄い靄がかかっていた。
ファーストステージ「ローリングヒル」。見慣れた丸太型のクッションが回転を始め、スタッフの声が響く。
「スタート、チョコレートプラネット・長田庄平!」
観覧席から拍手が起こり、長田さんは笑顔で両手を上げて応えた。助走をつけ、跳び移った瞬間、足元がわずかにずれた。鈍い音とともに、長田さんの身体が傾く。
「イタッ!」という声が響き、現場が一瞬で静まり返った。
すぐに医師と救急救命士が駆け寄り、長田さんは痛みをこらえながらも「すみません、ちょっと張り切りすぎちゃいました」と冗談めかして笑ったという。
「スタートボタンぐらいの骨」笑いで返すプロ意識
診断は「左足の甲の剥離骨折」。全治3か月。ギプスと松葉杖の生活が始まった。
それでも長田さんは、X(旧ツイッター)でこう投稿した。
「年甲斐もなく張り切ってしまい、ファミコンのコントローラーのスタートボタンぐらいの骨が剥がれました。ご心配無用です」
自虐のユーモアは、彼らしい回復のサインだった。ファンからは「笑いで安心させてくれるなんて」「さすが芸人」と温かい声が広がった。
TBSも「安全には細心の注意を払っていたが、大変申し訳なく思います。今後も徹底してまいります」とコメント。番組は予定通り、年末に放送される。
SASUKEという“挑戦文化”とリスクのはざま
「SASUKE」は1997年に始まり、今や世界160か国で放送される“日本発の挑戦コンテンツ”だ。
泥にまみれ、汗に光る筋肉、跳躍の一瞬に宿る集中。それはスポーツでも芸でもなく、人間の本能的な挑戦心を映し出す舞台である。
ただしその裏には、常にリスクがつきまとう。
2000年代初頭、「筋肉番付」時代には重傷事故も発生し、番組は一時中断。安全対策を徹底した今も、完全な無事故はありえない。
それでも挑む者が絶えないのは、そこに「自己超越」という人間的快楽があるからだ。
SNS上では、「芸人が出るべきではない」「SASUKEは命を懸けすぎ」といった批判が飛ぶ一方、「だからこそリアル」「失敗も含めてSASUKE」と擁護する声も多い。
この二分は、“挑戦文化とメディア倫理のせめぎ合い”の象徴でもある。
“安全に挑む”という時代の模索
かつてバラエティは“体を張る笑い”で視聴者を惹きつけた。だが今、SNS時代の透明性の中で、「笑いと危険の境界」は問われている。
長田さんの負傷は、そのギリギリのバランスを映し出した事件でもあった。
それでも彼は、けがの直後にこう語ったという。
「SASUKEはずっと出てみたかった。悔しいけど、やれてよかったです」
その一言に、「笑い」と「挑戦」を生きる芸人の本懐がある。
リスクのない挑戦など、存在しない。
だからこそ、メディアが“安全に挑む環境”をいかに設計できるか?それが、次の時代のバラエティの使命なのかもしれない。



