
東京・新宿区で10月21日、東京2025世界陸上財団の定例理事会が開かれ、9月に開催された「東京2025世界陸上競技選手権大会」の総括報告が行われた。観客61万人、チケット収入44億円超という記録的成果を残した大会は、観客・選手・ボランティアが一体となった「SUGOI東京の9日間」として評価された。その中心には、25年にわたり大会を見つめ続けた俳優・織田裕二の存在があった。
61万人が熱狂、収入44億円超 東京が示したスポーツの可能性
9月13日から21日までの9日間、国立競技場を舞台に開催された世界陸上東京大会には、延べ61万9,288人が来場した。財団の武市敬事務総長は「1991年東京大会、2007年大阪大会を上回り、国内最多の観戦者数だった」と報告した。
チケット収入は開催前の財政計画44億円を上回り、経済波及効果は数百億円規模と見込まれる。会場の熱気は連日、SNSを通じて世界へ拡散され、公式アカウントの動画再生数は7億回を突破。国内テレビ中継の視聴者数も延べ7,977万人に達し、まさに「日本中が陸上に熱狂した9日間」となった。
ワールドアスレティックスは「Tokyo 2025 has set a new global standard(東京大会は新たな世界基準を打ち立てた)」と公式コメントを発表。大会の成功は、単なる観戦型イベントを超えた都市の成熟を示す指標にもなった。
安全・正確・円滑 運営の質が支えた“事件ゼロ”大会
大会の成功を支えたのは、緻密な運営体制だった。期間中、テロや雑踏事故といったトラブルは一切発生せず、ウォームアップ会場から国立競技場への選手輸送も滞りなく実施。
競技開始の遅延は「0」で、警視庁と大会組織委員会による連携の成果が数字に表れた。
海外メディアからは「Tokyo delivers on time(東京は時間を守る)」との見出しが躍り、国際大会運営の精度の高さが再評価された。財団関係者は「裏方の努力が“安全で静かな成功”を築いた」と語る。舞台裏での統制力と現場判断の的確さが、大会の信頼を支えたといえる。
ボランティア2,858人の力 多様性が大会を支えた
大会を支えたもう一つの柱が、延べ2,858人(速報値)に上るボランティアだ。国立競技場での案内やマラソンの給水、空港での誘導、練習会場の設営など、その活動は多岐にわたった。
年齢や国籍、障がいの有無を問わず、さまざまな背景を持つ人々が参加。
ある参加者は「選手から“ありがとう”と声をかけられた瞬間、疲れが吹き飛んだ」と語った。
財団は理事会で「多様な市民がともに大会をつくり上げたことこそ最大の成果」と総括した。単なるサポートではなく、共創型の運営モデルとして次代の国際イベントに継承される可能性がある。
世界最多53の国と地域がメダル獲得 競技の裾野が広がる
今大会では、史上最多となる53の国と地域がメダルを獲得した。北欧やアフリカ勢に加え、アジア太平洋の小国や中東諸国も表彰台に立った。ワールドアスレティックスは「陸上の真のグローバル化が進んでいる」と評価。競技力の分散が進むことで、世界陸上の舞台はより多様性に富むものとなった。
東京大会では、男女平等を前提とした賞金制度を採用。全種目で同一額が支給され、選手間の格差是正にも踏み出した。また環境配慮の「Tokyoモデル」では、再生素材を使用したトラックやリユースボトルの導入など、持続可能な大会運営が実現された。
織田裕二、25年目の“帰還” スポーツの情熱を伝える顔
世界陸上といえば、やはり織田裕二の存在を抜きには語れない。1997年アテネ大会以来、TBS中継のメインキャスターとして25年間“世界陸上の顔”を務めた彼は、今大会で「スペシャルアンバサダー」として復帰した。
開会式では「ここ東京で、世界が一つになる瞬間を見届けよう」と力強く呼びかけ、観客の拍手を浴びた。大会期間中の中継では、選手の表情に寄り添い「努力は必ず報われる」と語る姿が視聴者の心を打った。SNS上では「やっぱり世界陸上は織田裕二」「熱量が違う」と称賛の声が相次いだ。
さらに織田は、子ども向けの「バトン教室」にも参加し、「走ることの喜びを伝えたい」と語った。最終日には「次の北京大会はテレビの前でビール片手に応援します」と笑顔を見せ、観る者と競う者の距離を再び近づけた。彼の存在は、スポーツ中継を“物語”として記憶させる稀有な役割を果たしたといえる。
成功の先に問われる「レガシー」
大会が終わり、今問われているのは「熱狂のその先」だ。観客数や収益といった量的成果の裏に、地域社会や教育現場への波及効果をどう生み出すかが課題となる。
財団は、ボランティアの継続的な育成、競技者層の拡大、施設の有効利用など、レガシーづくりに向けた検証を進めている。織田裕二が体現した“共感の力”を社会的資産へどう転化できるか――それが日本のスポーツ文化の成熟を占う試金石となるだろう。
結び――都市が一つになった9日間
「SUGOI東京の9日間」は、数字に表れない熱と感情の記録でもあった。観客の歓声、ボランティアの献身、アスリートの躍動、そして織田裕二の言葉が交錯し、都市全体が“ひとつのチーム”となった。
61万人の観客と44億円超の収入。その背後には、スポーツを通じて社会をつなぐ力が確かに息づいていた。東京2025は、観るスポーツから「共につくるスポーツ」への転換点として、日本の記憶に刻まれるだろう。