
NHK連続テレビ小説『あんぱん』で主人公・のぶを演じる今田美桜。3365人のオーディションを勝ち抜いたその事実は、彼女が若手の有望株から「作品を背負う俳優」へと進化した証しである。
だが視聴者の記憶に鮮烈に残るのは、2021年『おかえりモネ』での脇役・神野マリアンナ莉子だった。なぜ脇役のときにこそ「ヒロインのようだ」と支持が集中するのか。そして実際にヒロインとなった『あんぱん』での今田は、どのように評価されているのか。SNSの反響や業界の声を交え、今田美桜という俳優の魅力を掘り下げる。
脇役が主役を照らす構図――神野莉子の存在感
『おかえりモネ』で今田が演じた神野莉子は、主人公・永浦百音(清原果耶)の同僚気象予報士。華やかな笑顔と都会的な佇まいを兼ね備え、物語を明るくする清涼剤のような存在だった。従来なら主人公のライバル役に配されがちなポジションだが、神野は百音に本音を語り、視聴者の共感を呼び込む役割を担った。「人の役に立ちたいって、結局自分のためじゃん?」という言葉には、時代の変化に呼応するリアリティがあった。
SNSでは「脇役なのに主役以上の輝き」「毎朝この笑顔に救われる」とのコメントがあふれ、Xでは「#神野莉子」がトレンド入り。ドラマ誌も「脇役で主役を食う存在感」と評した。評論家からは「彼女の演技は若者の等身大の葛藤を表現していた」との評価が寄せられた。脇役でここまで支持を集めるのは異例であり、今田はこの瞬間に“朝ドラヒロイン候補”としての名を確立したのである。
主人公は影を背負う時代――『あんぱん』のぶの試練
一方『あんぱん』で今田が挑んだのは、やなせたかしの妻・暢をモデルにしたヒロイン・のぶ。登場時は快活で負けん気の強い“はちきん”として描かれるが、戦時には教師として軍国主義教育を担い、敗戦後に深い絶望に沈む。従来の朝ドラのヒロイン像が清廉で前向きなキャラクターだったのに対し、のぶは「過ちを背負う存在」として造形された。
この重さは視聴者の間で賛否を分けた。「朝から重すぎる」「正直、神野莉子の方が癒やしだった」との声もあれば、「難役を透明感で支える今田の挑戦を評価したい」という意見もあった。評論家は「軽やかな脇役から一転し、影を引き受けるヒロインを成立させたことで、俳優としての評価をワンランク上げた」と評している。
今田美桜の歩みと俳優としての評価
1997年生まれ、16歳で福岡にてスカウトされ、2016年に上京。『僕たちがやりました』『花のち晴れ』などで注目を集め、映画『東京リベンジャーズ』でヒロインを演じた。2022年『悪女(わる)』で連ドラ初主演を果たすと、『ラストマン』『トリリオンゲーム』『いちばんすきな花』など話題作で活躍。とりわけ『いちばんすきな花』で演じた美容師・深雪夜々役では、外見によって誤解される女性の悩みを繊細に表現し、批評家から「透明感だけでなく陰影を描ける俳優」と高評価を受けた。
こうした実績を積み重ねたうえで挑んだ『あんぱん』。業界内では「数字を持つ女優」「作品の空気を変えられる存在」との評価が定着し、彼女は若手から実力派へと進化した。
ドキンちゃんの影――暢が映す“わがままな優しさ”
『アンパンマン』の人気キャラクター・ドキンちゃんのモデルが暢だったとされる。公式サイトには「じぶんのことを せかいで いちばん かわいいと おもっている。わがままで いつも ばいきんまんを こまらせているが、やさしい ところも ある」と記されている。わがままでありながら愛らしく、同時に優しさを宿す存在は、のぶの人物像と重なり合う。
今田が演じたのぶもまた、夫・嵩を叱咤しながらも支え続ける“強さと優しさの同居”を体現した。彼女の演技は、わがままを嫌味に変えず、優しさで包み込む稀有な力を持っていた。視聴者からは「のぶの厳しさの奥にある優しさが伝わった」「ドキンちゃんのモデルと聞いて納得」との反響が寄せられている。
反響と現場の証言「そこにいるだけで光を放つ存在」
共演の北村匠海は「今田さんは守り神のようだった」と語る。撮影現場では、誰かの隣に寄り添い、無茶振りを「アハハ!」と受け止める明るさで場を和ませた。SNSでも「笑顔に救われた」「重いテーマでも最後は温かい気持ちになれた」と肯定的な声が目立った。ネットニュースでは「最高のリアクション女優」と称されるなど、反応の良さも彼女の武器として注目されている。
脇役のときは純粋に光を供給し、ヒロインとしては影を照らす照明になる。役の立場によって光の質を変えながらも、今田美桜は常に「そこにいるだけで物語を豊かにする」俳優である。泣いても怒っても迷っても、太陽のような顔の光度を失わない。『あんぱん』を経た今田は、さらに大きな飛躍を遂げるだろう。