
米大リーグを代表する左腕、ロサンゼルス・ドジャース一筋のクレイトン・カーショー(36)が18日、今季限りでの現役引退を発表した。通算222勝を誇る大投手は、ファンにとって生え抜きの象徴であり、球史に残るレジェンドである。近年は大谷翔平の加入もあり、両者の関係性が注目され続けてきた。かつての”因縁”から互いへの尊敬へと変わった二人の歩みは、野球界を超えた物語となっている。
涙の引退会見、仲間と家族に囲まれて
18日(日本時間19日)、ドジャースタジアムでカーショーの引退会見が行われた。会場にはマンシー、キケ・ヘルナンデス、ロハス、エドマン、フリーマン、スミスら18人の選手に加え、ロバーツ監督やコーチ陣が出席。大谷翔平も会場後方から見守り、最前列には家族が座った。
カーショーは「きょうは集まってくれてありがとう。私は引退します。今はとても満足していて、今がいいタイミングだと思う」と語り始めた。しかしチームメートへの感謝を口にすると感情が溢れ、「彼らの目を見るのがつらい。本当にありがとう」と涙をこぼし、声を震わせた。
引退を意識し始めたのは1年前で、妻エレンと何度も話し合いを重ねてきたという。シーズン前から「最後になるかもしれない」と感じていたが、健康でマウンドに立ち続けられたことに感謝し「最高の退くタイミングだと確信した」と明かした。ロバーツ監督も「彼が感情的になるのは当然」と語り、長年の功績を称えた。
カーショーのプロフィールと輝かしい経歴
1988年にテキサス州ダラスで生まれたカーショーは、2006年ドラフト1巡目(全体7位)でドジャース入り。2008年にデビューすると、力強い速球と切れ味鋭いカーブを武器に瞬く間に先発ローテーションの軸となった。
通算222勝、防御率2点台前半、3000超の奪三振という数字は、まさに歴史的。サイ・ヤング賞3度、最多勝3度、最優秀防御率5度と数々の栄冠を手にし、2014年には投手ながらリーグMVPに輝いた。2020年のワールドシリーズ制覇では悲願の頂点を経験し、ドジャース黄金期の立役者として球史に名を刻んだ。
大谷翔平との”因縁”からリスペクトへ
2017年、大谷がメジャー挑戦を表明した際、ドジャースは面談の場にカーショーを用意した。旅行中にもかかわらず球団の要請に応じたカーショーだったが、最終的に大谷が選んだのはエンゼルス。球界関係者の間では「カーショーにとっては肩透かし」と語られ、両者には微妙な空気が漂った。
その後、2024年に大谷がドジャース入りを果たした時も「両者の距離感」を不安視する声があった。だがそれは杞憂に過ぎず、カーショーは大谷のストイックな姿勢に感銘を受け、互いのリスペクトが築かれていった。
尊敬の言葉とチームを動かす力
カーショーは昨年、大谷について「愚痴をこぼさず、常に同じ姿勢で準備を続ける。その一貫性は評価に値する」と語っている。また、大谷が「50本塁打50盗塁」を達成した際、本拠地でチーム全員がベンチから出て祝福した演出も、カーショーの発案だった。ロバーツ監督は「クレイトンがみんなで前に出ようと言った」と明かし、チームリーダーとしての存在感を裏付けた。
一方、大谷もカーショーに敬意を示し「長年集中力を保ち続けるのは大変なこと。毎日が学びになる」と語っている。かつての”因縁”は過去のものとなり、いまや両者は互いを高め合う関係へと昇華している。
大谷翔平の直近の躍動と存在感
今季の大谷翔平は、ドジャース移籍2年目にしてチームの大黒柱となっている。打撃面では既に40本を超える本塁打を放ち、打点やOPSでもリーグ上位をキープ。盗塁数も順調に積み重ね、かつての「二刀流」の枠を超えて、打者としても圧倒的な存在感を見せている。
ドジャースタジアムでは大谷の打席ごとに観客が総立ちとなり、チケットは連日完売。日本国内でも試合が報じられるたびにSNSで話題を独占し、「カーショーと大谷が同じ時代を共にしたことは奇跡」との声も広がっている。
日本での人気と惜別の声
カーショーは日本でも高い人気を誇った。圧倒的な成績に加え、温厚で実直な人柄はファンを惹きつけてきた。大谷と同僚となったことで注目度はさらに増し、今回の引退表明に対してSNSでは「カーショーがいるドジャースを応援してきた」「大谷と同じユニフォームを着た時間を忘れない」と惜別の声が相次いでいる。
ドジャース一筋16年、通算222勝。数々の栄光を手にしたクレイトン・カーショーは、今季を最後にユニホームを脱ぐ。だがその名前は、大谷翔平と交錯した物語とともに、ファンの記憶に深く刻まれるだろう。レジェンドの勇姿は去っても、その魂はドジャースと大谷の未来に生き続ける。