
アメリカ財務長官のベッセント氏が9月15日、スペインでの米中貿易協議後に語った「枠組み合意」の一言は、TikTokを愛用する米国の若者たちにとって希望の光となった。だがその舞台裏では、米中の国家間の駆け引きと巨額のマネーゲームが静かに動いていた。
若者たちの声が背中を押す
「TikTokが消えたら毎日の居場所がなくなる」。アメリカの10代や20代にとって、TikTokは単なるアプリではなく、自己表現の舞台であり、生活の一部だった。サービス禁止の期限が17日に迫る中、ホワイトハウスに寄せられた嘆願やSNS上の投稿は雪だるま式に膨らんでいった。
トランプ大統領がSNSに「若者たちが切実に残したいと願っていた『ある』企業」と書き込んだ背景には、こうした世論の圧力があったとみられる。
米中トップの駆け引き
今回の売却合意は、単なる企業取引ではない。中国にとってTikTokは、世界市場での影響力を誇示する旗印であり、アメリカにとっては安全保障の最前線に位置する存在だ。スペインでの協議では、中国の何立峰副首相が「国家の主権は譲れない」と突っぱねる一方、アメリカ側は「若者の自由を守る」と切り返したという。互いに一歩も引かぬ攻防の中で浮かび上がったのが、19日のトランプ大統領と習近平主席による最終決着の舞台だった。
米中関係において、TikTokはもはやアプリの域を超え、覇権争いの象徴となっている。かつてファーウェイをめぐる禁輸措置が火を噴いたときと同様に、テクノロジーは政治と経済を揺さぶる「外交カード」と化しているのだ。
巨額マネーが動く
焦点のひとつは買い手候補だ。アメリカ国内ではテック大手だけでなく、富豪投資家の名前も飛び交っている。買収額は数百億ドル規模に達するとされ、シリコンバレーやウォール街の思惑が複雑に絡み合う。ある金融関係者は「誰が買うかでTikTokの未来が変わる。クリエイターへの収益分配が改善されるのか、それとも商業主義に飲み込まれるのか」と語る。
一方、中国側が最後まで譲らなかったのは「アルゴリズムの引き渡し」だった。TikTokの核心をどこまで売却対象に含めるかが交渉の最大の焦点となり、アメリカが求める完全売却と、中国が望む部分的譲渡との間で綱引きが続いている。
「禁止か存続か」の瀬戸際
売却期限を目前に控えた今、アメリカ国内での禁止措置はひとまず回避される可能性が高まった。しかし、最終的な合意に至らなければ、若者たちが愛する舞台は一夜にして閉ざされる。舞台裏では外交と金と世論が複雑に絡み、まるでドラマの最終話のような緊張感が漂っている。
19日、ワシントンと北京をつなぐ電話回線で交わされる言葉が、TikTokの未来だけでなく、米中関係の新たな局面をも左右することになるだろう。