
2020年夏、和歌山県の海岸で2人の男性が互いの手首を結んだ状態で死亡しているのが発見された。自称占い師の浜田淑恵被告(63)は、信者だった2人を自殺に追い込んだとして自殺教唆の罪に問われている。
さらに裁判では、信者を精神的に支配し、金銭や不動産を巻き上げていた実態や、被害総額が数千万円にのぼる可能性があることも明らかになった。大阪地裁で公開された音声には、被告が信者の死を“名場面”と呼び、笑いながら語る姿が残されていた。
法廷に流れた「名場面」の言葉
2025年9月、大阪地裁で浜田被告の共犯とされる女性の裁判が開かれ、録音データが法廷で再生された。音声の中で浜田被告は、男性2人が命を落とした場面を「やばいな、名場面」「宇宙の名場面」と表現し、笑いを交えて語っていた。
「死んだぞ。私の元に連れてきた。あいつら役割を終えた」
そう語る姿には、人の死を悼む気配はなく、信者たちを“駒”のように扱う冷徹さが浮かび上がった。
弁護側は、音声を提供したのは浜田被告の元信者であり、彼女からの脅迫を受け、恐怖を感じながらも真実を伝えるために提出したと説明した。
共犯・滝谷被告の証言
共犯として裁かれている滝谷奈織被告(59)は、浜田被告との出会いや支配の実態を証言した。2007年、浜田被告が運営するウェブサイトを通じて知り合い、「創造主」と名乗る彼女に心酔。
スピリチュアルカウンセリングを受けて感銘を受けた滝谷被告は、大阪に移住し、生活のすべてを浜田被告に委ねるようになった。
信者の交際相手や住居を決める権限も浜田被告に握られ、献金を命じられれば親に金を無心してでも従う。その関係は完全な支配と服従の構図だった。滝谷被告は「逆らえば大変なことになる」と刷り込まれ、反抗できなかったと語った。
自殺決行の経緯
事件の引き金となったのは、浜田被告の愛人とされる未成年男性が精神的に不安定となり、彼女のもとを離れたことだった。取り乱した浜田被告は「取り戻すには自殺が必要だ」と信者らに告げた。
2020年7月31日、浜田被告に呼び出された信者らは和歌山の海へ向かう。
そこで「怖くなったらお互いに沈め合え」と指示された。滝谷被告が浜田被告の頭を押さえたところ、「やめて」と言われ、自殺は中止になったと理解したが、2人の男性は混乱の中で互いを沈め続け、命を落とした。
滝谷被告は「目を覚ましたときには2人が亡くなっていた」と振り返り、その冷酷な指示のもとで悲劇が起きた経緯が明らかになった。
数千万円に及ぶ金銭被害
裁判で注目されたのは、命の支配にとどまらず、金銭や資産を搾取する仕組みだった。
浜田被告は40代の男性信者に対し「逃げたらどうなるか分かっているな」と脅迫。
結果として2300万円を支払わせた疑いがある。また、亡くなった信者の一人が所有していた豪邸(評価額約8000万円)が、死因贈与契約によって浜田被告の親族に移転していたとされる。
現金の献金、不動産の移転、生活費の搾取などが積み重なり、被害総額は数千万円から億単位に迫る可能性があると指摘されている。信者は生活を切り詰め、オーディオ機器やレコードなどを売却してまで献金に充てていた。
長男の無念
犠牲となった男性の長男は、父との思い出を語った。父は数学やクラシック音楽に詳しく、ショパンを愛聴する穏やかな人物だった。しかし、浜田被告と接触してからは態度が一変し、20歳の長男に「親子の縁を切る」と告げて連絡を絶った。
「とても辛い気持ちでした」「公開された音声を聞いて悔しく、ひどいと思いました」
法廷での供述には、父を奪われた悔しさと怒りがにじんでいた。
洗脳が解けたのは逮捕後
滝谷被告は事件後に脱会したものの、完全に“洗脳”が解けたのは逮捕後だった。取り調べで現実を突きつけられ、「神を求める気持ちがあったから信じてしまった」と振り返る。
検察は「自ら積極的に関与した」として懲役2年を求刑。弁護側は「マインドコントロール下にあった」と寛大な処分を求め、裁判は結審した。
浜田被告は「殺人はしていない」と主張するが、信者の生活と財産を握り、命まで支配した構造は否定しようがない。今後の裁判では、自らを「創造主」と名乗った彼女の真意、巨額の金銭搾取の手口、そして宗教的支配の実態がどこまで解明されるかが注目される。
和歌山の海で命を落とした2人の死は、単なる自殺ではなく、心理的支配と金銭的搾取の果てに生まれた悲劇だった。その真相解明と被害者家族への救済が、今後の審理の最大の課題となる。