
令和の虎で、また大きな炎上が起きている。夏商戦のど真ん中で「冷感アイスポンチョ(以下、冷感ポンチョ)」が記録的なヒットとなり、数日で売上が急膨張した。
ところが、配送遅延と顧客対応の不備が重なり、クレームが噴出する。事業の中心人物である金城猛男氏の“音信不通”疑惑、出資者の安藤功一郎氏との関係解消、運営側の桑田龍征氏の釈明。
一連の混乱は、YouTube発の通販モデルが抱える構造的脆弱さを赤裸々に露わにした。ここでは、商品誕生の背景から炎上、謝罪、関係解消の表明に至るまでの推移を、公開動画や当事者の発言に基づいて丁寧にたどる。
「濡らして羽織るだけ」の熱中症対策ギア
冷感ポンチョは、炎天下でも本体を水で濡らし、軽く絞って羽織るだけで“ひんやり”を体感できると謳う簡便な暑熱対策ギアだ。体温上昇の抑制による熱中症リスクの軽減を訴求し、軽量・コンパクトゆえ携行しやすい。屋外作業やレジャー、リカバリー用途や高齢者の外出時にも向く設計と説明されてきた。
ただ、スタジオ撮影の演出では空調下での“冷え”を強調する場面が目立ったが、屋外では風量や湿度、絞り加減で体感が左右される――この“使いこなし”の繊細さが後に誤解や不満の温床となる。実際に、SNSなどにあがっているユーザーの声を見ていくと、相当濡らさないと冷えないが、羽織ることで身体も濡れてしまうことなどに対する声もあがっている。
わずか数日で売上が跳ね上がる
「ヒカルチャンネル」および「通販の虎」の動画公開後、販売は瞬く間に拡大した。配信から24時間で約5,000万円、72時間で約8,300万円、やがて累計は約3億円へ到達したことが動画内で説明されている。
単価は1枚3,980円前後。初期在庫は約800枚に過ぎず、想定の数十倍の受注が一気に積み上がった。追加生産は中国工場に依存し、夏の需要ピークに間に合わせるべく航空便手配や価格改定など“攻めの判断”が重なった。
在庫・物流・顧客対応の三重苦
ただ、この急拡大に対し、供給とオペレーションの基盤が脆弱だった。当事者の説明によると、工場との連携や梱包・配送の実務、受注管理番号による追跡など基本動作が追いつかず、7月末までに大口出荷という計画は遅延した。
問合せ窓口はフリーダイヤルやフォームに切り替えたが、回線がつながらない、返信が定型的で到着予定が示されない――といった不満が膨張。「届かない」「いつ届くか分からない」「返事がない」という三重のクレームがXやYouTubeのコメント欄に溢れ、販売チームの信頼は一気に冷え込んだ。
配色の刷り違い(ベージュのロゴ色がカーキに見える個体)など軽微な品質表記の齟齬も、説明不足と相まって疑心暗鬼を増幅させたようだ。
体感性能への評価も割れる “濡れすぎ問題”と“冷えない論争”
性能を巡っては「真夏の屋外で助かった」「フェスで役立った」と肯定的な声がある一方、「想像より冷えない」「服が濡れて不快」との指摘も少なくない。動画関係者の説明では、室内空調下での効果強調が先行し、屋外使用では絞り加減や風通しで体感が変わること、濡れすぎると“ベタつき”、絞りすぎると乾きが早いといった“コツ”の周知が十分でなかった。
機能素材や仕様の変更は否定されているが、伝わり方の問題が不信を呼び込み、顧客対応の遅れがその火に油を注いだ。
そうした最中、金城社長が逃亡してしまうという珍事態が発生する。
金城猛男の“不在”と、現場の疲弊
中心人物の金城猛男氏が一時的に姿を見せなくなったということがSNS上で言われるようになったのだ。8月22日、実際にヒカルチャンネルで、「通販で3億売れた冷感ポンチョがクレームにより大炎上…責任者が逃げる最悪の事態になりました」という動画が公開される。ヒカルと桑田社長の二人が、視聴者に向けて謝罪し、現在の状況を説明し、金城社長に戻ってきてくれと呼びかける事態の深刻さが漏れ伝わってくる動画だった。
本人は後に「飛んだわけではない」と釈明し、顧客対応をスタッフに任せていたと説明した。しかし8月中旬の重要な時期に連絡が途絶えたことで現場の指揮系統は乱れ、社内外の信頼は大きく揺らいだ。もともと数人規模の体制で数万件の注文と問い合わせをさばくのは無理があり、外部の助けや迅速な意思決定が不可欠だった。
公開謝罪「99%配送完了」と再発防止策
そして、8月24日、「通販の虎」チャンネルにて、「この度は冷感ポンチョの件で何度もお騒がせしてしまい大変申し訳ございませんでした。」といった動画が公開される。
出演したのは逃亡していた金城氏と桑田龍征氏。二人は配送遅延の責任を認め「99%の配送は完了した」と説明した。販売は一時停止し、未着や不具合は個別に対応する方針を示した。さらに中国工場の遅延を前提に余裕を持った計画を組むこと、梱包や表示を事前に確認すること、経験豊富な外部経営者の助言を取り入れることなど、再発防止策を列挙した。
動画で自ら表に出て説明した点は、失地回復のための最低限の一歩だったハズだが、動画のなかで金主であり、株主でもある安藤社長への言及が少なかったことから炎上していってしまうことに。コメント欄も安藤社長への謝罪はどうした?といった内容が目立つことに。
出資の“真相” 安藤功一郎が語った齟齬
そして、今度は8月26日、安藤功一郎氏は自身のチャンネルで「出資の顛末」を公表した。株式会社STEADの資本金1,000万円は全額を安藤氏が拠出し、本来は金城氏が500万円を負担して株式を折半する予定だったが、現時点で金城氏の拠出は実現していないという内情を開示した。
業務の急拡大に対応するため、自社社員を派遣して業務を肩代わりした経緯も明かしている。安藤氏は「本来は金城氏と一緒に続けたい」と語りつつも、方向性の違いや意思決定の齟齬が関係解消の理由になったと説明した。
株式や資金の精算をどうするのか、今後の処理は不透明なままだ。
桑田龍征の立場 “間に立つ者”の苦悩
こうした動画を経て、通販の虎運営責任者である桑田龍征氏は、Xで「自分の落ち度は何か」と問いかけた。金城氏との単独動画を公開した背景や「片方だけとは撮らない」という方針を説明しつつ、配送遅延については「安藤社長にも一因がある」と指摘した。
販売は停止し、まずは既存注文の完配を優先する姿勢を強調。単なる販売の場にとどまらず、顧客対応まで見届ける体制を整える必要性を認めた。
何が問題だったのか “売れすぎ”が招いた構造的欠陥
今回の混乱の根本は、爆発的な販売力と脆弱な供給体制の不均衡にある。YouTubeの拡散力で瞬間的に需要を呼び込む一方、在庫計画や納期管理、顧客対応の体制が追いつかなかった。
遅れるなら販売を止めるという基本的な判断を欠いたことが、炎上を招いたといえる。さらに「冷える」と強調された映像と、屋外での実際の使用感の差が、説明不足によって不信感を生んだということもあるだろう。
信頼回復は「納品完了」から
販売は現在停止中で、未着や不具合への対応が続いている。謝罪動画では「99%配送完了」と説明されたが、多くの顧客にとっては「夏に間に合わなかった」事実が残る。
信頼を取り戻すには、残る注文の完配、返金や交換の透明な対応、FAQやマニュアルの整備、第三者による検証情報の開示、経営体制の明確化――こうした手順を積み重ねる以外にないだろう。
動画が映した“人間模様”
ヒカル氏は「売上が伸びた後こそ守りに徹すべきだ」と指摘した。金城氏は「飛んでいない」と釈明して表に出たが、安藤氏は「負担の偏り」を訴え、関係性の再設計を求めた。桑田氏は二人の間に立って破綻を防ごうと動いた。
視聴者にとってはドラマでも、顧客にとっては生活の道具であり、企業にとっては信用そのものだ。最後に決着をつけるのは、言葉ではなく確実な納品と誠実な対応でもってしかないだろう。
それでも残る商品価値
商品自体を評価している声は多い。不満を言う人もいるが、酷暑の屋外作業やフェスで「助かった」という声は少なくないのだ。であれば、供給体制と顧客対応を立て直せば、再びヒット商品に返り咲く余地はあるだろう。
だが次は「売れた後」を想定してから売ること。これが、YouTube発通販に課せられた最低限の責任でないだろうか。