
秋田県大仙市の住宅で93歳の男性が死亡した事件で、警察は同居する51歳の長男を殺人の疑いで逮捕した。当初は遺体の損傷や現場の荒れ方から「クマ襲撃の可能性」が指摘されたが、司法解剖の結果、人為的な刺し傷と判明。山間部という地域性が誤認の背景にあり、事件は家庭内殺人へと一転した。
クマ襲撃の可能性から一転、殺人事件に
秋田県大仙市協和峰吉川の住宅で、93歳の進藤藤義さんが血を流して死亡しているのが18日に発見された事件で、県警は19日夜、同居する長男を殺人の疑いで逮捕した。逮捕されたのは無職の進藤藤行容疑者(51)。父を刃物で切りつけ殺害した疑いが持たれている。
なぜ当初「クマ襲撃」と考えられたのか
事件直後、消防隊員や警察が現場に駆け付けた際、遺体の損傷が激しく、室内も広範囲に荒らされていた。このため「クマによる可能性もある」との見立てが浮上し、大仙市は防災メールで住民に注意を呼びかけた。
背景には地域特有の事情がある。現場周辺は山間部でツキノワグマの出没が多く、2025年は例年より目撃情報が増加。市が運営する「クマダス」でも連日のように出没地点が記録されていた。
「現場で獣の毛や足跡が見つかったわけではありませんが、クマの可能性を排除できませんでした」(大仙署副署長)。
しかし司法解剖の結果、進藤さんの体には刃物による複数の刺し傷があり、防御創も確認。獣害ではなく殺人と断定され、捜査の焦点は家庭内へ移った。
被害者は植物研究者として知られる人物
進藤さんは元教師で、山野草、とくにラン科植物「エビネ」の研究者として知られる。1981年には『日本のエビネ』(八坂書房)を出版し、「日本えびね協会」の常任理事を務めた経歴を持つ。近隣住民によれば、事件直前まで自転車で畑作業に通う姿が見られていたという。
今後の捜査の行方
警察は自宅から凶器とみられる刃物数本を押収。動機や経緯の解明を進めている。
今回の事件は「クマ被害」と誤認されるほど地域と状況が重なった異例のケースであり、家庭内の殺人事件として改めて波紋を広げている。