山手線の車内で爆音を響かせ、バク宙を披露するドイツ人インフルエンサー「Sigma Boy」。過激な行動にSNSで怒りの声が相次いでいる。拡散される動画の背景と法的リスクとは。

山手線の車内。乗客がスマートフォンを手に静かに過ごす時間帯に、突如としてスピーカーから大音量の音楽が流れ始めた。
驚いた乗客たちが一斉に振り向き、戸惑いと警戒の表情を浮かべた。音を鳴らしていたのは、白人の若い男性だった。
彼はそのまま次の駅で電車を降り、今度はホームで音楽を流しながらバク宙を披露した。人通りの多い場所にもかかわらず、迷惑を省みないパフォーマンスを続けた様子が、SNSで瞬く間に拡散された。
この人物は、インスタグラムでおよそ100万人のフォロワーを持つドイツ国籍の17歳、Simon Both氏。SNS上では「Sigma Boy」と名乗り、過激な動画投稿を続けている。
日本各地で撮影を繰り返し、SNSで拡散 動画の過熱と炎上
Sigma Boy氏は、山手線のみならず東京メトロや代々木公園、丸ノ内線国会議事堂前駅など、都内各地で同様のパフォーマンスを行い、その模様をSNSに投稿していた。中でも代々木公園での動画は多くの注目を集めているが、公園内での撮影には都市公園法に基づき事前申請が必要な場合がある。
もし無許可で商業的・組織的な撮影を行っていたのであれば、同法に違反する可能性もあり、行政対応が問われる局面に発展する可能性もある。
また、駅構内や車内で音楽を鳴らす行為は、公共の秩序や利用者の安全を妨げるものであり、軽犯罪法や鉄道営業法、迷惑防止条例などの法令に抵触するおそれも指摘されている。
複数の法律関係者も、「周囲に不安や不快感を与える行為であれば、仮に少年であっても指導や行政措置の対象となりうる」との見解を示している。
マナーの摩擦が露呈 「映える日本」を消費するインフルエンサー文化
こうした行為の背景には、SNS映えを最優先に行動する一部の訪日インフルエンサーと、日本の公共マナー意識との間にあるリテラシーギャップが存在する。
Sigma Boy氏は、来日前にも韓国の公共交通機関内で似たような行動を撮影していたとみられ、パフォーマンス動画で再生数を稼ぐスタイルを確立していた。だが、日本では公共空間における静けさや礼節を重んじる文化が根強く、映える演出との間に明確な摩擦が生じる構図となっている。
観光庁が推進する「持続可能な観光」においても、地域住民との共存やマナー遵守が重視されており、今回のような行為は観光地の受け入れ体制や意識にも問いを投げかける。
SNSには怒りの声が殺到 現場での“沈黙”もまた議論に
彼の行動がSNSで拡散されると、ネット上には次々と批判の声が投稿された。
「なぜ逮捕されないのか」「水をかけたい」「公共交通機関を遊び場にするな」「なぜ現場で誰も止めないのか」といった怒りの声に加え、「炎上動画を見る人がいるから、こういうことが起きる」との指摘も相次いだ。
その一方で、文化の違いを前提とした冷静なコメントや、規範を明確に示すべきという建設的な議論も展開されており、本件が単なる迷惑行為にとどまらず、日本社会の課題を映し出す鏡ともなっている。
新宿での「撮影予告」も 行政・交通機関の対応が注目される
Sigma Boy氏は、自身のSNS上で4月19日18時に新宿で撮影イベントを行うと予告しており、さらなる混乱が懸念されている。
今後、警察や自治体、鉄道事業者などが対応に乗り出す可能性もある。現時点で具体的な行政対応は明らかになっていないものの、事態の推移によっては、出入国管理法上の措置(再入国制限等)が検討されることも想定される。
公共空間の“ルール”を再考する契機に 規範なき表現の代償
この一件は、SNS時代における「自己表現」と「公共のルール」が衝突する典型的な事例といえる。誰もが動画を撮り、発信できる時代にあって、他者への配慮や社会的ルールがどこまで守られるべきか。その基準が改めて問われている。
観光立国として世界に開かれた日本だからこそ、多様な価値観と共存するための“最低限の共通認識”をどう築くか。今後の制度設計とともに、私たち一人ひとりがその課題に向き合う時期にきている。