
近年、世界的に抹茶の人気が高まり、カフェやレストランで「MATCHA」という言葉を目にする機会が増えた。SNSの影響や健康志向の高まりが需要を後押しし、輸出額も過去最高を更新。しかし、その裏では生産農家の高齢化や供給不足といった課題も浮かび上がっている。本記事では、抹茶の魅力と歴史をひもときながら、現在の抹茶ブームの背景を探る。
世界的に拡大する抹茶人気
抹茶の人気は日本国内にとどまらず、世界的な広がりを見せている。特に欧米や東南アジアでは、抹茶を使ったスイーツやドリンクがブームとなり、多くのカフェで抹茶ラテや抹茶アイスが提供されるようになった。農林水産省のデータによると、2024年の緑茶輸出額は前年比約25%増の364億円に達し、過去最高を更新した。特にアメリカ、EU、アジア圏での需要が急増している。
また、SNSの影響も無視できない。TikTokやInstagramでは、抹茶の点て方やスイーツの動画が人気を集め、多くのユーザーが抹茶に興味を持つようになった。特にインフルエンサーによる投稿が影響力を持ち、一部の抹茶メーカーは商品の品薄に直面している。
抹茶の魅力とは?
抹茶がここまで人気を集める理由には、以下の3つが挙げられる。
① 健康効果の高さ
抹茶にはカテキンやテアニン、ビタミンCが豊富に含まれており、抗酸化作用やリラックス効果が期待できる。特にダイエット効果や血糖値の上昇抑制が注目され、健康志向の高い層に支持されている。
② 多様な楽しみ方
抹茶はそのまま飲むだけでなく、スイーツや料理の材料としても活用される。
抹茶ラテ、アイスクリーム、ケーキ、さらには抹茶塩など、幅広い用途がある。
③ 日本文化への関心の高まり
海外では日本の伝統文化への関心が高まっている。その中で、抹茶は「和の精神」を象徴する存在として認識されており、茶道体験や抹茶の淹れ方を学ぶワークショップが人気を博している。
抹茶の歴史と進化
抹茶は世界的なブームになっている。ここでは抹茶の歴史について辿ろうと思う。
抹茶の歴史は古く、日本における始まりは鎌倉時代にまで遡る。中国・宋の時代に確立された「点茶」文化が日本に伝わり、禅宗の僧侶・栄西が1191年に茶の種子を日本に持ち帰ったことが、日本の抹茶文化の起源とされている。彼は『喫茶養生記』を著し、抹茶の健康効果や精神的な価値について説いた。これが武士階級を中心に広がり、やがて茶道として発展することとなる。
① 室町時代~戦国時代:茶道の確立
室町時代に入ると、足利将軍家が「闘茶」と呼ばれる茶の飲み比べを盛んに行い、茶の品質を競う文化が生まれた。その後、村田珠光や千利休によって「侘び茶」が確立され、精神性を重視した茶道の文化が確立された。千利休の茶道は、シンプルな美学と深い精神性を兼ね備え、現在の茶道の基礎となっている。
② 江戸時代:抹茶の一般化と発展
江戸時代には、抹茶文化が武士だけでなく町人階級にも広がった。抹茶を楽しむ茶屋が増え、一般の人々も手軽に抹茶を味わえるようになった。また、この時代に「てん茶」の栽培技術が確立され、現在の抹茶の製法に近いものが完成した。
③ 明治時代~昭和時代:煎茶文化の台頭と抹茶の低迷
明治時代に入ると、煎茶の普及により抹茶の消費量は減少し、茶道の世界で主に用いられる存在となった。しかし、宇治や西尾などの抹茶の名産地では、品質の向上が図られ続けた。
④ 現代:世界的な抹茶ブーム
2000年代に入り、健康志向の高まりとともに抹茶が再び注目を集めるようになった。特にアメリカやヨーロッパでは、スーパーフードとしての抹茶の栄養価が評価され、ラテやスイーツに取り入れられるようになった。また、抹茶を用いたカクテルやスムージーなど、幅広い用途で活用されるようになり、今では日本を代表する食文化の一つとして世界中で愛されるようになる。
お茶と抹茶の違い
ここまでで、抹茶の魅力や歴史を辿ってきたが、そもそも、我々がよく聞く「お茶」と「抹茶」にはどのような違いがあるのか、疑問に感じる人もいるかもしれない。
実は、「お茶」と「抹茶」は同じ茶葉を原料としながらも、栽培方法や製造方法、飲み方に違いがある。
① 栽培方法の違い
抹茶の原料となる「てん茶」は、収穫前に茶畑を覆い日光を遮る「被覆栽培」を行う。これにより、旨味成分であるテアニンが豊富になり、渋みが抑えられる。一方、煎茶などの一般的なお茶は日光を浴びて育つため、カテキンが増え、さっぱりとした味わいになる。
② 製造方法の違い
煎茶は摘み取った茶葉を蒸して揉みながら乾燥させるが、抹茶は蒸した後に揉まずに乾燥させ、石臼で挽いて粉状にする。このため、抹茶は茶葉をまるごと摂取できる。
③ 飲み方の違い
煎茶やほうじ茶は湯に浸して成分を抽出する「浸出式」だが、抹茶は粉を湯に溶かして飲む「懸濁式」。そのため、茶葉の栄養を余すことなく摂取できる。
抹茶の生産と直面する課題
世界的に抹茶人気が高まる一方で、生産現場はさまざまな課題を抱えている。
① 生産量の減少
農林水産省のデータによると、日本の茶葉全体の生産量は減少傾向にある。
以下の表は過去5年間の茶葉生産量の推移を示している。
年 | 全国荒茶生産量(トン) |
---|---|
2019 | 81,700 |
2020 | 69,800 |
2021 | 78,100 |
2022 | 77,200 |
2023(概数) | 75,200 |
この減少の主な要因は、生産農家の高齢化と後継者不足がある。煎茶や抹茶を含め、全体的な生産量の減少が続いており、持続可能な生産体制の確立が求められている。
② 品質維持の難しさ
抹茶は特定の条件下で栽培される「てん茶」を原料とするため、大量生産が難しい。
特に宇治抹茶のような高品質なものは、伝統的な製法を守りながら生産されており、急激な生産拡大は難しいとされている。
③ 価格の高騰と転売問題
需要の急増により、抹茶の価格は高騰している。海外では宇治抹茶が転売され、正規の価格の2~3倍で取引されるケースも報告されているようだ。
まとめ
抹茶は今や世界的なブームとなり、多くの人々に親しまれている。しかし、その背景には生産農家の課題や供給の問題も存在する。持続可能な抹茶産業を築くためには、品質維持や後継者育成、環境への配慮が不可欠だ。抹茶文化の未来を守るために、私たち消費者も正しい知識を持ち、適正価格で購入することが求められる。
【参照】令和5年産茶の摘採面積、生葉収穫量及び荒茶生産量(主産県)(農林水産省)