ニデックによる買収提案に対する牧野フライスの慎重な対応
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ニデックによる牧野フライス製作所(証券コード:6135)の買収計画を巡る議論が、さらに新たな局面を迎えている。2025年2月21日、牧野フライスは正式に発表し、ニデックからの「質問状」に対する回答を受領し、その内容を精査した結果、買収提案の是非を判断するための十分な情報が得られていないとの見解を示した。
情報開示の不十分さが課題に
牧野フライスは、2025年2月7日にニデックに対して送付した第2次質問状に対する回答について、透明性が強く標榜されているにもかかわらず、多くの質問に対して明確な説明が得られなかったと指摘した。特に、ニデックの機械事業本部セグメントを構成する事業部門や子会社の詳細な情報開示については、抽象的な回答にとどまった。加えて、子会社の従業員数の推移、平均勤続年数、平均年齢、残業時間、有給取得率、年間給与額といった詳細データも十分に提供されなかったことが明らかになった。
このため、牧野フライスは「取締役会及び特別委員会、そして株主が十分な判断材料を得たとは言い難い」との見解を示し、透明性に対する懸念を強調した。
面談実施で情報収集を強化
この状況を受け、牧野フライスはニデックからの強い要請に応じ、両社の経営陣による面談を実施する方針を発表した。今回の面談は、買収提案が同社の企業価値向上に寄与するかどうかを見極める上で「客観的に必要」とされ、できる限り早期に行う方向で調整が進められている。
現在の予定では、2025年3月上旬に面談が実施される見通し。
経済産業省のガイドラインに沿った対応を表明
牧野フライスは、今回の買収提案に対する対応を経済産業省が示す「企業買収における行動指針」に則って進めていることを明言。企業価値の向上と株主共同の利益の確保を最優先に考慮し、買収提案の是非のみならず、他の代替策を含むあらゆる戦略的オプションを引き続き検討していく方針を示した。
事前交渉なきTOBと市場の衝撃
さて、ここまでの経緯を少し遡っておこう。そもそもは、ニデックが2024年12月27日に牧野フライスの完全子会社化を目指す買収提案を発表、約2500億円規模の買収を計画したことに端を発する。今回の買収提案は、日本初となる事前交渉なきTOBとされ、業界内に大きな波紋を広げている。
これに対し、牧野フライスはニデックに2度にわたる質問状を提出。内容は60項目以上に及び、特に技術シナジーに関する疑義を強調した。対照的に、ニデックは「お客様のニーズを共有することでビジネスチャンスが増える」と説明しているが、両社の製品特性や顧客層が大きく異なることから、買収によるシナジー効果には疑問が残る。
2025年1月31日、牧野フライスがオンラインで開催した決算説明会では、ニデックによるTOBの影響について注目が集まった。登壇した永野敏之専務は冒頭で、「当社を取り巻く状況が騒がしくなっておりますが、注文いただいた機械を納期通りに納め、アフターサービス等も粛々とやっております」と冷静に述べた。これにより、事業運営に支障がないことを強調した。
難航する交渉と企業価値向上の課題
また、牧野フライスはニデックの買収提案に対抗するため、自力での企業価値向上を目指し、2030年3月期までの新たな事業計画を発表。総還元性向を従来の35~45%から60%に引き上げ、2029年度までに連結売上高2900億円、営業利益率12.5%を目標に掲げている。というのがここまでのところだ。
今後の焦点と買収交渉の見通し
冒頭の21日の牧野フライスの適時開示の内容に戻るが、今回の面談は、ニデックと牧野フライスの間で進行中の買収交渉における重要な分岐点となる。これまで、ニデックは中国市場における懸念解消に向けた対話を積極的に行ってきたが、牧野フライスが求める情報開示の透明性に対する対応が今後の交渉の行方を大きく左右することは間違いない。
3月上旬の面談結果により、買収交渉の成否が一層明確になると見られており、両社の動向に業界関係者や投資家からの注目が集まっている。