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DEIの仮面、剥がれゆくきれいごと:真の多様性はどこへ行く Belongingに手垢がつく日

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DEIの仮面
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2024年12月11日、米連邦巡回区控訴裁判所はナスダックが上場企業に女性やマイノリティーの取締役選任を求める取締役会多様性ルールを無効と判断した。

このニュースは、トランプ氏当選後の反ESGの潮流を象徴するものとして世界を駆け巡り、DEI(多様性、公平性、包摂性)推進の波に冷や水を浴びせた。

ダイバーシティ。華やかなラベルを貼られたその言葉は、もはや手垢にまみれ、その真意を見失っているようだ。女性、外国人、LGBTQ+…。まるでチェックリストを埋めるように、数を揃えれば済むとでも言うように。だが、本当にそれで「多様」と言えるのか?

アメリカで露わになるDEI後退の波

ナスダックの多様性ルールの無効化は、氷山の一角に過ぎない。ウォルマート、フォード、ハーレーダビッドソン…。DEI推進の旗手だったはずの大企業がここにきて次々と取り組みを縮小している。米国内で160万人もの従業員を抱えるウォルマートは、まさにアメリカ最大の雇用の受け皿だ。店舗で働く従業員には黒人やヒスパニック系などの人種的マイノリティも多く、DEI施策の変更は彼らの昇進や待遇に大きな影響を与える可能性がある。

さらに、ウォルマートは取引先選定においても、多様化への取り組みを考慮しない方針を打ち出したことが11月末に報じられている。10万社にも及ぶと言われる同社の取引先に、この方針転換が波及すれば、アメリカ経済全体への影響は計り知れない。

経済合理性と理想の狭間で

なぜ、こうなってしまったのか?きれいごとだけでは飯は食えない、というわけだ。保守派からの反発、株主からのプレッシャー、そして何よりも、目に見える成果の出にくさ。DEIはコストばかりかかって、結局は企業の利益につながらない、という声が経営陣を怯ませている。

ダイバーシティとは本来、単に外見的な違いを集めることではなかったハズだ。一人ひとりの思考、発想、感性の違いこそが、組織の創造性を生み出す源泉として捉えること。天邪鬼な意見、異端の視点、それらを受け入れる度量がなければ、どんなにマイノリティを集めても意味はない。

この事実が、ここにきてやっと世界で認められだしたと、ポジティブに捉えるべきかもしれない。

エクイティ:真の公平性とは何か

エクイティ、公平性。これもまた、誤解されやすい言葉だ。「機会の平等」を履き違え、能力も努力も関係なく、結果だけを平等にしようとする愚。そんな偽善に未来はあるはずもない。真の公平性とは、個人がその能力を最大限に発揮できる土壌を作ることだ。チャンスは平等に与えられ、成果は正当に評価される。厳しい競争原理こそが、個人の成長を促し、ひいては社会全体の発展につながるのだ。

DEIからBelongingへ

最近、DEIに代わり「帰属」という概念を重視する傾向がみえる。英語で”Belonging(帰属意識)”と表現する企業が多いが、ダイバーシティに代わりBelongingを掲げる米国企業が増えているようだ。あるいは、DE&Iに「B」が付いた「DEI&B」と呼ぶ企業もある。

帰属というと、会社のルールに従うというイメージが持たれがちだが、Belongingは「自分が組織や社会の一員として受け入れられている実感」を指す。心理的安全性やウェルビーイングが大きく関連する言葉だ。

Diversityから始まり、D&I(Inclusion=包摂)、そしてDEI(Equity=公平性)と、時代と共に多様性支援の用語は進化してきた。しかし、その根底にある一人ひとりの個性を尊重するという理念は変わっていないはずだ。

外形のみ整え、女性の社外取締役就任ブームが起きている日本では、DEIがBelongingに置き換わるこの新しい潮流を嬉々として受け止め、また言葉の表層の上澄みを外形として伝播していくことが危惧されている。

思考が硬直化し、組織の同質性を高めるだけの人材は、たとえマイノリティの属性を有していても、ダイバーシティ推進の観点からは無意味なことに、いい加減気づくべきである。

ダイバーシティの本質とは

ダイバーシティと言うと、どうしても性別や国籍といった外形的な属性に目が行きがちだ。しかし、企業価値向上におけるダイバーシティの本質は、多様な能力や思考を持つ人材を組織に迎え入れ、適材適所に配置することで最大限のパフォーマンスを引き出すことにあるのではないか。

たとえマジョリティの属性を持つ人物であっても、周りに刺激を与え、新たな発想のヒントを与えるような人材であれば、それはダイバーシティの貴重な一員と受け止められる、そうした組織が社会に増えることを切に願う。

きれいごとから科学へ ESG2.0への期待

混沌とした世界経済。トランプ大統領の再登場によって、ESGは、共和党からの攻撃にさらされ、風前の灯火にみえる。だが、この火が一過性のグローバル潮流であったとは思わない。

テクノロジーの進化は、ESGに新たな光を灯そうとしている。衛星データによる森林破壊の監視、観測、AIによる企業評価……。データに基づいた客観的な評価は、ESGを「きれいごと」から「科学」へと進化させるだろう。

資本主義の論理と、人権や倫理。相反する二つの価値観は、永遠に相容れないのだろうか?きれいごとは、いつかは色褪せ、忘れ去られてしまうのだろうか?いや、そうではないはずだ。一人ひとりが尊厳を持ち、その能力を最大限に発揮できる社会。そんな理想を追い求めることこそが、私たち人間に課せられた使命なのだ。

暗闇の先に、かすかな光が見える。それは、まだ見ぬ未来への希望の光だ。その光を信じ、私たちは歩み続ける。たとえ、その道がどれほど険しくとも。

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ライター:

株式会社Sacco 代表取締役。一般社団法人100年経営研究機構参与。一般社団法人SHOEHORN理事。週刊誌・月刊誌のライターを経て2015年Saccoを起業。社会的養護の自立を応援するヒーロー『くつべらマン』の2代目。 連載: 日経MJ『老舗リブランディング』、週刊エコノミスト 『SDGs最前線』、日本経済新聞電子版『長寿企業の研究』

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