地方都市における病院経営は、医師不足や高齢化、経営難といった課題を抱えている。そんな中、茨城県つくば市の「筑波胃腸病院」は、2020年に鈴木隆二氏が親族外承継し、理事長に就任後、黒字転換を達成した。
胃腸科専門病院として地域医療に貢献
筑波胃腸病院は、1978年に設立された歴史を持つ、食道、胃、腸、肛門、肝臓、胆嚢、膵臓などの消化器外科の専門病院だ。60床を有し、年間800件を超える手術実績を持つ。内視鏡検査や外科手術に強みを持ち、「おなかのことなら、まずはこちらへ」をモットーに、地域住民の健康を支えている。
「当院は、大学病院のような大規模病院とは異なり、地域に密着した医療を提供できることが強みです。患者さん一人ひとりと向き合い、丁寧な説明と適切な治療を心がけています」と鈴木氏は語る。
経営手腕を発揮し、就任初年度で黒字化を達成
鈴木氏は、2010年より同院に医師として勤務していたが、先代院長が高齢になったことを機に、2020年に病院を承継した。興味深いのは、鈴木氏が病院の承継にあたり、M&A仲介会社を利用しなかった点だ。高額な手数料が発生するため、法人の企業価値評価(デューデリジェンス)のみFA(ファイナンシャル・アドバイザー)に委託をし、あとは当事者間で話を進めていったという。
働いている過程で、病院の経営状態を把握するとともに、従業員との信頼関係構築にも努めた。
「病院経営は、数字だけではありません。そこで働く人たちの想いや、地域医療への貢献といった側面も考慮することが重要だと考えています。私が大切にしているのは、チーム医療という考え方です」
この丁寧なPMI(経営統合後の活動)が功を奏し、鈴木氏は従業員の協力を得ながら、スムーズに病院経営の舵取りを進めることができた。
「病院の経営は容易ではありませんでしたが、コスト削減や業務効率化など、できることから取り組みました。医療の質を落とすことなく、患者さんの負担を軽減できるよう、様々な改革を進めています」
具体的には、医療材料費や人材派遣会社の見直しなどを断行。それまで曖昧になっていた契約を見直し、適正価格での取引を徹底した。
「この業界は、慣習的に不透明な部分があり、それが病院経営を圧迫している一因だと感じていました。そこで、あらゆる契約内容を精査し、無駄をなくすことから始めました」
その結果、鈴木氏が理事長に就任した初年度で黒字化を達成。多くの病院の医業利益が変わらぬ診療報酬やコスト高によって赤字に苦しむなか、鈴木氏の経営手腕が高く評価された結果と言えるだろう。現在は、約110名の職員を雇用するまでに規模を拡大させている。
異色の経歴を持つ外科医
福島県いわき市出身の鈴木氏は、野球に打ち込みながらも、地元の名門磐城高校を卒業後、聖マリアンナ医科大学に進学。医師免許を取得し、東京女子医科大学病院などで外科医としての研鑽を積んだ。
「医師として、患者さんのために何ができるかを常に考えてきました。大学病院では、高度な医療を提供できる一方で、組織の論理や慣習に疑問を抱く場面もありました。より患者さんに寄り添い、自分の理想とする医療を実現したいという思いから、筑波胃腸病院で働くことを決意しました」。
地域医療の未来を見据え、新たな挑戦へ
鈴木氏は、筑波胃腸病院の更なる発展に向けて、病院の増床計画を進めている。また、手術で数か月待ちの状態を解消するため、千葉県柏駅前に新たな病院を設立した。
「現在は、内視鏡検査や手術で2~4か月待ちの状態です。患者さんの負担を軽減するためにも、設備の拡充は急務です。また、予防医療にも力を入れていきたいと考えています。病気になってから治療するのではなく、病気にならないためのサポート体制を整えていきたいです」
鈴木氏の挑戦は、医師不足や経営難といった課題を抱える地方都市の病院経営のお手本となるだろう。
「医療従事者を志す若い世代には、ぜひ地方都市での医療に目を向けてほしい。地域医療は、やりがいのある仕事です。そして、地域医療の未来を担う若い力が必要です」
鈴木氏は最後に、医療情報との向き合い方についても、次のように提言する。
「SNSなどで手軽に医療情報に触れられるようになった一方で、情報が溢れすぎているのも事実です。自分の健康に関することだからこそ、安易な情報に左右されるのではなく、専門家の話を聞いて正しい知識を身につけてほしいと思います」。