大中忠夫(おおなか・ただお)
株式会社グローバル・マネジメント・ネットワークス代表取締役 (2004~)
CoachSource LLP Executive Coach (2004~)
三菱商事株式会社 (1975-91)、GE メディカルシステムズ (1991-94)、プライスウォーターハウスクーパー
スコンサルタントLLPディレクター (1994-2001)、ヒューイットアソシエイツLLP日本法人代表取締役
(2001-03)、名古屋商科大学大学院教授 (2009-21)
最新著書:「持続進化経営力構築法」2023.4.8
日本を「日本株式会社」という一つの会社に見立てて再興の鍵を探す、大中忠夫さんによるコラム。
本コラムで2023昨年4月出版の「持続進化経営力構築法」全面改訂版の「まえがき」における日本企業新生のグローバル社会経済全体に対する意義についてご紹介します。
現代グローバル社会の停滞と混迷の決定的な打開策は
2024年初頭現在、停滞し続けるグローバル経済、拡大し続ける社会的、国家的な格差、そして結局はそれらを根源として繰り返される人間同士の地域、国家間の紛争。さらにはそれらが引き金となりかねない地球規模の核戦争リスクの日常化。人間社会は、そのような末期的な症状といえる状況に直面しています。
果たしてこの状況にある人間社会の未来を拓く手段はあるのでしょうか?
まずは、この現代社会の急速に深刻化しつつある混迷と危機の根本原因を直視する必要があるでしょう。まず最初に見えてくるのは、金融経済主導の偏った先進国経済の行き詰まりです。そしてそれはまさに1929年の米国発世界恐慌と本質的には何ら違いが無いことにも気がつくでしょう。このままでは人間社会は100年を経たにもかかわらず、再び同じ選択肢を繰り返すことになりかねません。
しかしその次には、現代社会の混迷と危機の本質的な原因も見えてきます。それは経済進化手法に対する人間社会全体の無知です。21世紀現在においても未だ人間社会はグローバル社会全体を平和共存させうる経済成長進化をどうしたら実現できるのか、わかっていない!のです。
現代に至っても人間社会全体が共創する経済進化手法の共有がどういうわけか後回しにされ続けています。その結果依然として、権力と武力闘争、すなわち軍事力で他者から富と経済価値を奪う中世以来の思考行動と決別できていません。
さらにその根源には、経済成長は人間社会の生存競争のための手段であるとの誤解もあるようです。しかしながら、日本社会は世界に先駆けて、それが全くの逆である事実、経済成長は人間社会の生存競争ではなく、共存進化のための手段であることを20世紀中盤に体験しています。
それが池田勇人首相の起動した高度経済成長です。この日本の奇跡とも呼ばれた現象は、日本社会が二度と戦争を繰り返さないための経済成長の追求でした。したがってそれは池田勇人首相が著書「均衡財政」で提起したように「世界の平和実現」を目的とするものでした。経済成長は人間社会全体の共存進化のための必須基盤である事実を日本社会は自ら体験しているのです。そしてそこには経済成長の原動力としての会社経営が出現していました。
にもかかわらず、残念なことに日本社会はその奇跡的な経済成長の結果に過剰に魅了され、さらには抑えがたい自己満足と多少の傲慢さにも押し動かされ、1990年のバブル経済破裂とともにその本来の世界平和のための経済成長実現の使命を忘失してしまいました。さらにその後のほぼ四半世紀におよぶ株主財産会社経営による偏向した実質経済成長の冬の時代を耐え続けることにもなりました。
日本株式会社の新生:社会経済基盤としての人間集団の新たな起動
しかしながら、世界の主要国経済が深刻な崩壊の兆しを示している2024年。そして人間同士の武力衝突の拡大を止める制御力の衰えが人間社会の存亡すら危ぶまれるレベルになりつつある現在、再び日本株式会社が息を吹き返しつつあります。日本株式会社が新生しつつあるのです。
この数ヶ月のうちに急速に欧米巨大ファンドが次々と日本株に大規模傾斜しつつありますが、その日本株式会社新世の本質は彼らにすら必ずしも見極めることはできていないでしょう。その本質とは、日本株式会社自身の深層記憶、社会経済成長の基盤原動力としての自己の存在意義の体験記憶です。
そして、それこそがこのグローバル社会の、出口の見えない経済閉塞と絶え間ない武力衝突の現状を打開する鍵なのです。
グローバル社会は会社という社会経済基盤としての人間集団の潜在力を無視したままで、それを単なる投資家のための財産増殖マシンとしてしか活用してきませんでした。しかし、日本株式会社は、その本質的な潜在力の実現と途中挫折から四半世紀を経て、その間の資本増殖マシンとしての鍛錬と忍耐の時代も経て、新たに生まれ変わりつつあります。欧米巨大ファンドが日本株に注目し始めている原因には、その息吹の感触もあるでしょう。
なぜ日本株式会社は新生しつつあるのか?
ではなぜ、そして何が、日本株式会社を新生させたのか?それは日本社会の会社、さらには多種多様な組織集団のリーダー人材の深層記憶です。日本株式会社の深層記憶とは経営リーダー人材群の深層記憶に他なりません。彼らが自らの体験見聞から、あるいは先達人材の行動から無意識のうちにも継承している、「会社は社会に新たな価値を提供し、平和共存の未来を拓く存在である」という思いの記憶です。
本書は、現代経営リーダー人材たちに継承され2024年初頭現在再び新たに出現しつつある、「社会に価値を創造し提供する集団としての会社」の経営意識とその実現のための手法と体制を体系的に整理しています。
新生日本株式会社は、その経済成長原動力が産み出すエネルギー提供のみでなく、それを実現する具体的な経営技術と戦略体系を現実モデルとしてグローバル社会に公開することで、現代グローバル社会の混迷と危機を克服し、人間社会の未来を拓く重要な鍵ともなります。
この新生日本株式会社の最新経営技術と体制を、決して十分とはいえずまた読みやすいとも思えませんが、まずはこの研究の先駆けとして粗々にも整理できたのは、著者の30年間の多種多様グローバルビジネス経験とその後20年間のビジネスコンサルタントおよび教職者・研究者としての広角情報収集によるものであろうと思います。本書が、過去半世紀にわたり著者を生かしてくださった全ての方々への御礼として、現代社会に生き未来を拓かんとする現在と次世代の経営者と会社構成人材の方々のお役に立つことを祈ります。
なお、本書は主に上場プライム50社の統計分析に基づいた情報書ですが、新生日本株式会社の全体像については、近刊予定の「日本株式会社新生記」(シリーズ全書)にて、上場2,920社の経営分析を起点としてマクロとミクロの両面から記録しています。
本書はその予告編でもあり、総括編でもあります。
令和6年1月11日 大中忠夫
「持続進化経営力構築法」 目次
まえがき
第I部 東証プライム50社の持続進化経営力統計
企業総生産が経営基盤力の指標
第1章 持続進化経営力の3つの測定指標
企業総生産、企業総投資、持続進化指数
第2章 持続進化経営力の2測定分野と6測定課題
持続進化経営力と均衡配分経営力
第3章 東証プライム50社の持続進化経営力総括
持続進化経営力の存在を検証する
第II部 創造体制力を構築する5つの経営意識転換
会社は社会の公器たることで持続進化する
序 章 なぜ経営意識転換が必要なのか?
経営トップの意識転換が会社進化を起動する
第1章 会社定義の転換
株主財産から経済基盤に
第2章 経営目的の転換
短期効率生産から社会価値創造へ
第3章 経営目標値の転換
ROE目標値からCSI (持続進化指数)目標値に
第4章 資本蓄積の意識転換
持続的な進化のための内部留保蓄積
第5章 資本投資の意識転換
持続的な進化のための研究開発投資
第III部 創造実現力を構築する5つの社員意識転換
創造力は人間すべてに与えられた能力
序 章 WBC 賛歌2023
なぜ「楽しもうとすると」楽しいのか?
第1章 創造力に挑戦する
Imagine!
第2章 創造力を起動する
脅威が創造を始動する
第3章 創造力を実践する
不屈の精神とは創造力というソフトウエア
第4章 創造力を修得する
20世紀の日本の高度経済成長期からの伝言
第5章 創造力を進化させる
社会と経済の創造者として
第IV部 持続進化する会社の5つの組織構造転換
社員の獲得欲求と貢献欲求とを均衡させる
第1章 マネジメント能力の転換
管理能力から進化能力
第2章 経営体内時計の転換
四半期サイクルから価値開発サイクルに
第3章 評価制度の転換
獲得欲求を刺激して貢献欲求を期待する矛盾の解消
第4章 育成制度の転換
創造力を短期増強する全社ワークショップ
第5章 報酬制度の転換
創造力の最大障害を解消する
第V部 政府の新たな役割と5つの意識転換
The Wealth of Nations 2023:グローバル平和共存
第1章 経済二層構造の現実を直視する
会社こそが経済成長の原動力
第2章 政府による産業支援方針の意識転換
「生産性」の向上ではなく「創造性」の起動
第3章 金融政策の意識転換
通貨と金利と中央銀行の新たな役割
第4章 財政政策の意識転換
未来社会は現代社会の最重要顧客
第5章 経済成長の目的を転換する
富から生命へ:社会経済進化の目的は世界平和の実現
第VI部 日本社会の新たな役割と5つの意識転換
人間の尊厳探求が人間社会の未来を拓く
第1章 資本主義は人間社会とともに進化する
金利は自らゼロを目指している
第2章 金融産業の進化のための意識転換
経年劣化しない通貨「資源」の流通管理者として
第3章 人間社会の進化のための意識転換
創造力の相対性理論と最大関門
第4章 人間の尊厳を探求する
「思いやり」、Respect、Teamwork、そして「 仁」
第5章 人間の新たな役割と責任
人間はその尊厳を探求することでのみ未来を任される
あとがき 補遺 著者紹介