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認定NPO法人D×P(ディーピー)

https://www.dreampossibility.com/

〒540-0032 大阪市中央区天満橋京町1-27 ファラン天満橋33号室

06-7222-3001

10代を孤立させない未来を目指して。D×P代表に聞く、社会貢献と組織運営を両立させることの意義

ステークホルダーVOICE 経営インタビュー
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認定NPO法人D×P 理事長 今井紀明さん(画像提供:認定NPO法人 D×P 以下同)

不登校、高校中退、家庭内不和、経済的困難、いじめ、虐待。さまざまな理由で、生きづらさを抱える10代がいる。厚生労働省の令和4年度「国民生活基礎調査」によれば、17歳以下の子どもの貧困率は 11.5%。文部科学省の調査では、不登校の中高生は約25.4万人にものぼる(「令和4年度の児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」より)。深刻な問題を抱えながらも、社会のセーフティーネットにたどり着けず孤立してしまう10代も多い。

そんな「10代の孤立」という社会課題に向き合うのが、認定NPO法人 D×P(ディーピー、以下 D×P)だ。大阪府を拠点に、「学校や繁華街」と「インターネット」の2つのフィールドを中心に支援の場を広げ続けている。

理事長の今井紀明さんは、2004年に子どもたちの医療支援のために渡航したイラクで、現地の武装勢力に人質として拘束された「イラク人質事件」の当事者でもある。帰国後に受けた日本社会からのバッシングにより、引きこもりを経験。孤立した10代の支援に真摯に向き合う動機は、自らの原体験にある。

特筆すべきは、D×Pが社会の公器としての責任を担いながらも、時には大胆な金額の投資も行う寄付型の組織であることだ。その運営判断には、D×Pに関わるさまざまなステークホルダーの思いが掛け合わさっている。社会貢献活動と、組織運営を両立させることの意義を聞いた。

10代の社会復帰を「運のよさ」で終わらせない

「私が経験した社会復帰を、『運のよさ』で終わらせたくなかったんです」今井さんは、D×P設立の動機をそう振り返る。

今井さんが支援活動を始めたきっかけは、2001年にまで遡る。世界中に衝撃をもたらした、9.11のアメリカ同時多発テロ事件だ。当時16歳だった今井さんは、子どもたちにさまざまな被害をもたらす不条理な状況を変えたいと思い始めた。「イラク人質事件」の当事者となったのは18歳の時。子どもたちに向けた医療支援のNGOの立ち上げのためにイラク入りした際に、人質として拘束された。帰国後は「自己責任」の言葉のもと日本社会から大きなバッシングを受けたという。

今井さんは「現在の私からは想像できない、とよく言われるんですが」と前置きし、「人と話すことができなくなり、引きこもり状態が約5年ほど続いた」と振り返る。そんな時に救いの手を差し伸べたのが高校の頃の恩師だった。大学への進学が社会復帰のきっかけになるだろうと、今井さんの家まで願書を持って来てくれたのだ。

恩師や友人に助けられながら、今井さんは大学へ進学。時を同じくして、通信制高校に通いながらも進路が未決定となってしまう、生きづらさを抱える高校生と出会った。高校生が抱える困難と自身の経験が重なり「10代の社会復帰を『運のよさ』で終わらせず、仕組み化したい」と、D×Pを立ち上げた。

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認定NPO法人D×P 理事長 今井紀明さん

10代の孤立は、安心できる場や所属先を失ったときに起こるという。D×Pは、オフライン(学校や繁華街)とオンライン(インターネット)の両方で、行政の手が届きにくい子どもたちと「つながり」を作っている。寄せられる相談には、親に頼れない子どもが多いのだそうだ。「ひとりひとりの若者が、自分の未来に希望を持てる社会を作っていく」。それがD×Pの掲げるビジョンだ。

支援の難しさを知るからこそ、時にはリスクをとる運営判断を

「つながり」の作り方はさまざまだ。通信制・定時制高校においては独自の対話授業や学内の居場所づくりを実施。オンラインでは13歳〜25歳向けのLINE相談窓口「ユキサキチャット」を運営し、進路や就職・生活困窮の相談にのっている。「ずっと大人のことを信用できなかった。自分のことを信じてくれて、応援してくれる人がいるのがうれしい」──これは、ユキサキチャットに進路相談を寄せた実際の高校生の声である。

支援の場は、さらなる広がりを見せている。2022年から始まった「街中アウトリーチ事業」では、居場所を求めてグリ下に集まっている若者に向けたフリーカフェの運営を開始。学校やオンラインではリーチできない若者に対して、飲食の提供や公的機関との連携など、必要な支援を行なっている。

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大阪ミナミのグリ下で運営するフリーカフェ。開始から約1年で、利用者数は700人近くにのぼる。(画像提供:認定NPO法人D×P(ディーピー)

「お金が無くて食料が買えない」という若者の相談は、特に2020年頃から増え始めたという。同年4月の新型コロナウイルス流行による緊急事態宣言が大きな契機となった。

「若者から『所持金がない』『公共料金を滞納している』という相談がたくさん届くんです。もはや相談だけで解決できる問題ではないので、急遽借り入れをして資金を確保し、新しく食糧支援と現金給付のサポートを始めました」

この支援は「ユキサキ支援パック」と呼ばれ、給付・支援と相談サポートを掛け合わせて最大で15ヶ月間の支援期間を設けている。生活困窮をしのぐと同時に、就職活動や利用できる公的支援や奨学金の申請などにより自立していけるよう、スタッフが継続的にサポートしていくプロジェクトだ。

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コロナ禍に開始した「ユキサキ支援パック」。現在も、2022年から始まった物価高騰のあおりで困窮する若者が多いという。認定NPO法人D×P(ディーピー)

D×Pは2023年9月現在、寄付者は4,000人以上、サポーター企業も100社を超える。今年、街中アウトリーチ事業に投資した金額は5,000万円だという。「本当に必要な支援だと考えたので、あえてリスクを取った」と語る今井さんの口調は淡々としたものだが、前年度の事業規模は約2億円であることを踏まえると、その1/4となる投資である。支援の難しさを知る人の、覚悟と胆力があってこその英断だ。

NPO法人でありながら、所在地である大阪府の平均給与並みの人件費を支払っているのも大きな特徴だ。寄付者にも説明の上で、組織としての持続可能性を考慮した判断だという。そして、持続可能性の考慮は労働環境にも及んでいる。その理由について今井さんは「NPO法人でよく起きる燃え尽き症候群(バーンアウトシンドローム)を防ぐ必要がある」と語る。

「スタッフは日々、かなり厳しいケースにも直面しているので、精神的な疲労が生まれてしまうこともあります。だからこそユキサキチャットも土日はお休みにし、365日の対応をしないようにしているんです」

寄付型の組織である以上、寄付者やサポーター企業などステークホルダーへの情報透明性の維持も欠かせない。D×Pの毎年の活動報告書と活動計算書には、数値とともに細やかな状況報告文が添えられている。あらゆる運営判断には、常にリスクとデメリットが伴う。今井さんはそのすべてを背負い、若者がセーフティーネットから抜け落ちないように、社会の公器としてつながりをつくり続けている。

いつかはアジアへ。孤立する10代を、社会全体で支援する未来を目指して

内閣府によれば、2023年3月時点で「子どもの健全育成を図る活動」を行うNPO法人は約24,000にのぼる。だが、そのうちD×Pのような規模で食糧支援や現金給付支援を行う団体は数が限定されてくるのだそうだ。

D×Pが見据える未来として、「2030年ビジョン」があるという。まずは対象とする孤立した若者に対して、2030年までに全体の3割までリーチすることを目標としている。この3割は、マーケティング領域における「クープマン目標値」などの市場シェア理論を参照してのものだろう。この理論によれば、市場に影響するマーケットシェアの値は26.1%だと言われている。

「その規模になると、私たち単独で実現するのは難しい領域になってきます。そこで、私たちから行政への提言や他のNPO法人へのノウハウ提供などを行うことで、社会全体で一緒に支援していける未来を目指していきたいんです」

こうした独自の支援ができているのも、寄付型の組織だからこそだと今井さんは語る。

「いずれは独立した資本で、若者が自分の未来に希望を持てる社会を作っていくのが目標です。社会保障制度から抜け漏れていく子どもは、どの時代でも出てくるものです。さまざまな地域で支援を広げていき、いつかはアジアでも支援をしていきたいですね」

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イラク再訪。国民避難民キャンプ

D×Pの名前の由来は「Dream times Possibility(ユメ×可能性)」。「車の整備士になりたい」も「ラーメンが食べたい」も、「未来に対する期待(ユメ)」だとしている。ユース世代のユメと可能性に、さまざまなステークホルダーの思いを掛け合わせていく。D×Pが築く「つながり」は、今後も多くの若者に希望と解をもたらしていくだろう。

◎団体概要
団体名:認定NPO法人D×P(ディーピー)
理事長:今井 紀明
住所:〒540-0032 大阪市中央区天満橋京町1-27ファラン天満橋33号室
沿革:2010年3月9日 創業
2012年6月27日 設立(NPO法人として認証)
2015年6月8日 認定NPO法人の取得

◎プロフィール
今井 紀明
認定NPO法人D×P(ディーピー)理事長

1985年札幌生まれ。立命館アジア太平洋大学(APU)卒。神戸在住、ステップファザー。高校生のとき、イラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立。その活動のために、当時、紛争地域だったイラクへ渡航。その際、現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後「自己責任」の言葉のもと日本社会から大きなバッシングを受ける。結果、対人恐怖症になるも、大学進学後友人らに支えられ復帰。偶然、中退・不登校を経験した10代と出会う。親や先生から否定された経験を持つ彼らと自身のバッシングされた経験が重なり、2012年にNPO法人D×Pを設立。

経済困窮、家庭事情などで孤立しやすい10代が頼れる先をつくるべく、登録者11,000名を超えるLINE相談「ユキサキチャット」で全国から相談に応じる。また定時制高校での授業や居場所事業を行なう。10代の声を聴いて伝えることを使命に、SNSなどで発信を続けている。

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ライター:

人のあらゆる営みを有機的に描くことを目指す、フリーランスのライター・編集者。ブランディングエージェンシーにてプランナー・ディレクターとしてプロモーション企画やコンテンツ制作に従事。やがて自身の文章への執着心に気づき、PR会社勤務を経てライター・編集者として独立。人の動機や感情に焦点を合わせながら、伝わる言葉を紡ぐことを目指している。

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