2023年6月9日、政府は外国人労働者の在留資格「特定技能2号」の対象業種をこれまでの2分野から、宿泊業を含む11分野へ拡大する案を閣議決定した。
一定の技能が必要な「1号」の在留期間が5年間であるのに対し、熟練した技能が求められる「2号」は、在留期間の更新回数に上限がなく、家族の帯同が認められる永住可能な資格である。
2号追加を経て、2023年7月、宿泊業界における特定技能の現状と課題を提起する記者発表が開催された。
登壇者として迎えられたのは、宿泊業界に特化した特定技能人材サービスを提供する株式会社ダイブ(以下、ダイブ)の外国人人材サービスユニット・ゼネラルマネージャー・菅沼基さん、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部(以下、全旅連青年部)部長の塚島英太さん、労務人材担当副部長・菅原真太郎さん、そしてホテル楊貴館取締役の岡藤明史さんと同ホテルで就業する2名の外国人労働者だ。
外国人雇用の現状や特定技能2号確定に対する宿泊施設側の反響、外国人労働者の導入事例について語られた記者発表の概要を以下に記す。
第一部:外国人雇用の現状と今後の課題/アンケート調査の結果開示
記者発表は、ダイブの外国人人材サービスユニットゼネラルマネージャーの菅沼基さんによる、ダイブと全旅連青年部による共同調査(対象:宿泊施設、期間:2023年5月15日〜26日、回答数:318件)の結果の共有から始まった。
同調査によれば、全国旅行支援による「観光需要の効果を感じた」施設は87%であり、訪日外国人の予約状況は76%の施設が「増加した」と回答している。回復傾向が読み取れる一方、「人手不足を感じている」と回答した施設は9割にのぼり、採用ニーズに働き手が追いついていない状況となっている。
そのギャップを埋める力として期待されているのが、外国人労働者だが、2023年1月以降「外国人の採用をしている」と回答した施設はわずか46%。日本での就業を目指す外国人の61%が宿泊施設で働いてみたいと回答しており、外国人労働者の積極的な活用が業界全体で求められているのが、「宿泊業界における外国人雇用の現状と今後の課題」であることが判明した。
第二部:2号確定「宿泊施設側の反響」
第二部では、全旅連青年部第26代全国部長の塚島英太さんより、特定技能二号追加に伴う宿泊業界の声が報告された。
塚島さんによれば、宿泊業界はアフターコロナに入った現在、全国的に深刻な人出不足に陥っている。入国規制の緩和以降、訪日外国人数が急増し、インバウンドが急激に回復傾向にあるものの、多言語に対応できるスタッフや若手スタッフの人材確保がままならず、宿泊稼働を意図的に制限せざるをえない施設も散見されるという。
そのため、業界を支える主力人材として外国人労働者を採用する意欲が全国的に高まりを見せている。全旅連青年部(労務)の調査では、9割以上の施設が外国人材採用の意向を表しているなど、外国人材の積極的な活用は業界にとって必要不可欠となっている。
こうした状況下においては、「特定技能2号拡大の閣議決定は宿泊施設にとっては大変喜ばしいことであり、在留年数・家族帯同許可など受入側・働き手側双方にとってメリットがある」と塚島さん。
国の成長戦略の柱である観光業の次世代の担い手には外国人材が必須であり、全旅連青年部として、「優秀な外国人材が光り輝く業会であり続けるための取り組みを全力で推進する」意向であることが語られた。
第三部:油谷湾温泉ホテル楊貴館の外国人材受け入れ事例
第三部では、山口県長門市の油谷湾温泉ホテル楊貴館の取締役の岡藤明史さんと、同ホテルで特定技能として働くインドネシア出身のアンドリーさんとレジーナさんによって、外国人材の受け入れの実際について語られた。
岡藤さんによれば、山口県長門市は市内だけでも5つの温泉郷があり、観光業が地域を支える産業の一つとして非常に期待されている。しかし、人口減少の進行により、若者の流出や少子高齢化の問題が深刻となった結果、業種を問わず人材を奪い合う状況に陥っているという。市内には大学、専門学校、短大が無いため、地元高校卒業後に大半が離れてしまい、学生のパートアルバイトも期待できないのが現実である。そこで挑戦したのが、外国人材の活用であった。
「外国人採用で一番驚いたのは、彼ら彼女らの熱意と意欲です。責任感をもって仕事に取り組んでいただいています。レジーナさんは就労して1ヶ月も経っていませんが、持ち前の明るさと柔軟性、前向きな姿勢から、スタッフから可愛がられる存在。日本のおもてなしをどんどん吸収していっています。アンドリーさんは、お箸の使い方から練習し、日本食とは何かを料理人から一から学んでいます。力持ちで積極的に配膳をしてくれるなど、彼の熱意と意欲は、職場の交流を活発にすることに貢献しています」と岡藤さん。
油谷湾温泉ホテル楊貴館で働くおふたりから、日本で働こうと思った動機、働いてみた感想、今後の目標、特定技能2号についてどう思うかが語られた。
アンドリーさん:「自分と家族のために日本で働こうと思いました。良い生活を手に入れたいです。今の仕事は最初は難しかったですが、皆さんが優しく教えてくれるのでとても良いと感じています。今後の目標は、日本でお金を貯めて、インドネシアでレンタルオフィスを作りたいです。特定技能2号については、家族も日本に呼ぶことができるので嬉しいです」
レジーナさん:「わずかな資格しか持たない人たちにチャンスを与えてくれることを魅力に感じました。また、もともと日本文化が大好きだったのでチャンスを受け取ろうと思いました。楊貴館の職場文化は、健全で楽しい。皆さんがいつも優しく教えてくれます。将来の夢は、自分で宿泊業を開業することなので、今後は日本の宿泊施設をいろいろ学びたいです。特定技能2号の制度は、外国人と日本人との間で新しいドアを開けると思います」
「どんなサポートがあれば嬉しいか?」という質問に対しては2名そろって、「日本語の勉強に関するサポートが欲しい」という回答であった。
外国人を雇用したい旅館・ホテルの経営者が、まずするべきこと
記者発表の最後に行われた質疑応答の結果は以下の通りである。
質問1「外国人を雇用したい旅館・ホテルの経営者が、まずするべきことは何か?」
菅原さん:「外国人を、“労働力”として受け入れるとうまくいきません。マニュアルの作成も必要ですが、人と人のことなので、外国人雇用の必要性を従業員に理解してもらい、“仲間”として受け入れる体制づくりが一番初めにやるべきことです。
質問2「他の分野に比べて、宿泊の特定技能を持つ人の数が少ない現状への対策は何か?」
菅原さん:「雇用側の意識改革も重要です。言葉や文化が違う外国人が日本の宿泊業界で働くことへリスペクトを持ち、労働環境の改善を図るべきでしょう。日本では外国人労働者に即戦力を求める傾向がありますが、社内の教育制度を整え、自社で人材を育成する努力が必要です」
質問3「長期就労と家族帯同が可能になったことへの期待とは?」
岡藤さん:「技術や知識面だけでなく、言語や文化の交流という点でもより成長する機会が増え、戦力となる意味でありがたいとことだと思います。家族帯同については、外国人労働者の生活満足度の向上や安心して働けるという点で意義があります。私たちも前向きに環境を整えていきたいと思います」
総括:海外人材の活用において重要なこと
記者発表の概要は以上である。
特に若者や言語が堪能な人材が不足する地方の宿泊施設においては、「特定技能2号」の対象業種に宿泊分野が追加されたことは、海外人材活用に注力する好機である。
海外人材の採用前には、「外国人労働者=即戦力」といった先入観を見直し、既存の日本人従業員に対する理解を求め、受け入れ側の体制を整える必要がある。
特定技能2号の制度を上手に活用すれば、レジーナさんの言葉通り、「外国人と日本人との間で、新しいドアを開くこと」になると期待される。
◎企業概要
社名:株式会社ダイブ
URL:https://dive.design/
代表:庄子潔
所在地:〒160-0022 東京都新宿区 新宿2-8-1 新宿セブンビル10F
連絡先:TEL:03-6311-9833
団体名:全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会
URL:http://www.yadonet.ne.jp/
代表:井上善博
所在地:〒102-0093 東京都千代田区平河町2-5-5 全国旅館会館4階
連絡先:TEL:03-3263-4428 FAX:03-3263-9789
社名:油谷湾温泉ホテル楊貴館
URL:https://www.hotelyokikan.jp/
所在地:〒759-4505 山口県長門市油谷伊上10130番地
連絡先:TEL:0837-32-1234 FAX:0837-32-1069