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性同一性障害職員の女性トイレ制限は「違憲」 表面化するジェンダーとトイレの課題

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photoACより

2023年7月11日、初めて最高裁が性的マイノリティーの人の職場環境について判断を示した。

裁判の原告は、女性として生活する性同一性障害の経済産業省の職員だ。職場の女性用トイレの使用を制限されたとして処遇の改善などを求めており、第2審では「適法」と判断されたものの、第3審となる今回の「違法」判決で逆転勝訴となった。

この職員は専門医から性同一性障害と診断され、健康上の理由で性別適合手術は受けていないが、ホルモン治療を受けたうえでプライベートでは女性として生活している。2010年には、同僚への説明会を経て女性らしい服装や化粧で勤務を始め、名前も変更した。しかし、勤務フロアと上下一階ずつの女性用トイレの使用は認められず、トイレに行くために2階分移動しなければならない生活を送っていた。経産省に制限を撤廃させるため、人事院に救済を求めたものの、2015年に経産省の対応に問題はないとされた。そして、この判定の取り消しを求めて国を提訴したのである。

2019年の第1審では制限を「違法」とし、国に慰謝料など132万円の支払いを命じた。他の女性職員への配慮は必要だが、原告職員が性的な危害を加える可能性は客観的に低い状態で、社会生活でも女性として認識される度合いが高かったと指摘し、「自認する性別に即した社会生活を送ることは重要な法的利益で、制約は正当化できない」という判断だ。また、上司が面談で「手術をしないのであれば男に戻ってはどうか」と発言した点も「性自認を正面から否定する」その判断の一要素となった。

ところが、2021年の第2審では「適法」と判断され、制限撤廃などを求めた原告の請求を棄却した。経産省の対応は原告に配慮して決定されたとして「著しく不合理であるとはいえない」という判断だ。また、「(経産省は)先進的な取り組みがしやすい民間企業とは事情が異なる」とも言及した。

そして第3審となる今回、制限は不当であるとして「違憲」と判断され、逆転勝訴となったのである。

ジェンダーレストイレ整備の課題

トイレの利用に関してはいくつか課題がある。最近の事例で言えば、新宿にある東急歌舞伎町タワーの「ジェンダーレストイレ」が挙げられるだろう。多様性への配慮から作られたトイレだが、その作りや運用開始後の状況が問題となった。

性別や性自認等に関わらず利用できるトイレを整備しようとすることは良い流れであるし、「だれでもトイレ」や多目的に使えるトイレは街中でも増えてきている。

しかし、職場や既にある建物の中でのトイレ環境の整備はそう簡単ではない。誰でも使うことができるトイレを増設するのも「作ろう」という思いだけで実現できるものではないし、性的マイノリティの人のトイレ利用について説明あるいは新たなルール作りをし、理解や合意を得ることも、組織が大きいほど大変なことだ。

そして、性的マイノリティの人たちのトイレ利用については、さまざまな立場からいろいろな意見がある。それらを汲み取ったうえでのトイレ整備はもはや社会課題と言えるだろう。

経産省は職員に対して適切な対応をできていたか

しかしながら、今回の裁判の事の発端を考えてみると、トイレ問題にかかわらず職員に対する対応が適切でなかった可能性もある。上司による「男に戻ってはどうか」の発言や、職場にいるほかの人たちによるサポート、その後の人事院の対応などだ。職員の服装や化粧を認めていた点では理解しようという動きはあったように見えるが、職員の訴えを聞いてなんとかしようと実際に動く姿勢があったのだろうか。職場全体として真摯に向き合い、動く姿勢やサポートがあれば裁判に至らなかったかもしれない。

裁判の様相だけ見れば、原告が国を訴えた形だ。しかし、これは人と人との問題でもあるのではないだろうか。誰かが助けやサポートを求める声に対して、どれだけその人のことを考えられるか。「理解せよ」「何でも受け入れよ」と言っているわけでも、この一件に関わっていないのに「相手の立場になれ」と言っているわけでもない。性別や性自認を抜きにして、人と人として関われていたかということである。上の立場になるほど職場や企業の視点から話さなければならない場面もあるだろうが、相手にしているのは”職員”なだけではなく、自分と同じ”人”であることを忘れてはならない。

今回の判決が、官民の職場環境の整備に影響を与える可能性がある。どういう形が良いのかは、それぞれの環境によって違うだろう。それを見つけ出し、実現するのは時間がかかるかもしれないが、まさにいま、そして未来の社会で生き残り、必要とされる企業となるには欠かせない取り組みだ。

【参考】
トイレ利用制限「違法」国に賠償命令 性同一性障害の経産省職員勝訴(東京新聞web)
性同一性障害職員の女性トイレ制限は「違法」。最高裁が逆転判決、性的マイノリティの職場対応で初判断(HUFFPOST)

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ライター:

フリーライター。昔から感想文や小論文を書くのが好きで、今なお「書くこと」はどれだけしても苦にならない。人と話すのが好きなことから、取材記事の執筆が主軸となっている。新潟県で田んぼに囲まれて育った原体験から、田舎や地方への興味があり、目標は「全国各地で書く仕事をする」こと。

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