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IPCC報告書と石炭民事訴訟と世界幸福レポートが公開された日 社会課題としての三重点

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Steve BuissinneによるPixabayからの画像

2023年3月20日。みなさんにとって、この日はどんな日だっただろうか。日本では、翌日の21日は春分の日であり、昼の長さと夜の長さが同じになる。お彼岸と言われる日だ。先祖のお墓をきれいにして、此の方と彼の方との対話に思いを馳せる。旧暦でいえば、春分は節分に相当し、1年で1番寒い日とされるが、それは同時に、これよりさき暦がかわる節目とも言える。さながら、春の訪れを予感させるように、新しい時代の節目となるのか。20日はESGの世界でも象徴的な出来事が3つ重なる日となった。

はたして、IPCCの第6次評価報告書統合報告書(AR6SYR)の警鐘を重く受け止める人たちと石炭火力発電所の差し止め棄却に安堵している人たちは、一緒に笑い合えるのだろうか。太陽と月の様に、交じりあわないだろうか?此の方の幸福は、彼の方の幸福にはならないのだろうか。

偶然にも、同じ日に発生した3つのトピック。政治と科学による気候変動に関する報告書・司法によるエネルギーと地域の判決・SDGsと多様なアクターによる幸福についてのレポート。元環境省職員で、非営利団体Circular In-finity代表の佐藤が読者のみなさんを社会課題としての三重点にご案内したい。

1.AR6SYR

図1 気温上昇に伴う生物種の喪失リスク分布(IPCC_AR6_SYR_SPMから引用)

IPCCの概説については、以前の記事(https://coki.jp/article/column/27427/)をご参照頂きたい。そして、ネックになるのは情報を英語のサイトから探して、英語で読まなければいけないことである。以下の画面に辿り着いたら正解である。https://www.ipcc.ch/report/ar6/syr/

図2 AR6 Synthesis Report: Climate Change 2023から引用

Summary for Policymakers(SPM)が政策決定者向け要約のことであり、ニッチながらも幅広く読まれるドキュメントとなっている。今回は36ページという分量でまとめられている。

Longer ReportとSYRは準備中となっている。Longer Reportは、従来の表現でいうとTechnical Report(TR)と相当すると思料する。つまり、より技術的・専門的な内容となってると思われる。日本語の資料をIPCCの資料から作るときは、SPMを中心として、適宜TRも参照する。

そして、SYRについては数千ページから1万ページほどの分量かと思われる。Longer ReportやSYRができてないのに、SPMが完成していることに違和感を覚える方もいるかと思うが、政治家や官僚の合意と科学者の合意が違うということである。今回のIPCC58の会議は5日間の予定が延長して8日間になったわけだが、各国の合意を得られればSPMは修正できるが、そうでない場合は本文を直すというようなオペレーションになる。

残念ながら本文を読む方は限られているので、これはアウトリーチというよりは科学者の名誉や沽券、または後世のためのレファレンスとして巨人を築く努力の一端と思われる。基本的にIPCCのプロセスに関わっている科学者はそれをもって金銭的な対価を得られないので、名誉のある仕事をしていると私は思う。

さて、とはいっても日本語でさらっと読みたいという方がもちろんおられると思う。Headline Statementに関しては環境省のサイトなどで日本語の暫定訳が公表されているので、そちらをご覧頂きたい。https://www.env.go.jp/press/press_01347.html

2.神戸石炭民事訴訟

原告:兵庫県内に居住し、被害を受ける恐れがある者
被告:株式会社コベルコパワー神戸第二    
株式会社神戸製鋼所
関西電力株式会社
請求内容:石炭火力発電所の建設・稼働・発電の差し止め

2018年から続いてきた民事訴訟が2023年3月20日に判決が出た。差し止めは棄却である。では、何が問題なのか少しおさらいしてみよう。図2のように、化石燃料による発電でも使う資源によって排出する副産物の量が変わってくる。つまり、石炭火力発電は環境にも人体にも悪いものを他と比べて多く出しているのではないかと言うことだ。

そして、これはロックインと呼ばれているが、発電所などの不動産を新設すると、たとえば40年の利用をする場合、40年間悪いものを出し続けることになる恐れがある。つまり、改善すべきものが固定化されてしまう危険がある。

図3 vol.4 知っておきたい天然ガスの基礎知識。~LNG、パイプライン、水素製造…… 天然ガスの利用可能性~ : 刊行物 | 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構[JOGMEC]から引用

ここでは、誰が悪い、なにがまずいということの言及は避けたい。ただ、材料は提供するので、是非皆さん自身で考えてみてほしい。
この発電所の特徴としては、次のようなものがあげられる。
「微粉炭火カ・超々臨界圧発電(USC)・二酸化炭素回収貯留技術はなし」

3番目の技術は確立していないので、実質最新の技術の導入になる。つまり効率が良く、CO2の排出量が少ない石炭火力発電だということである。ちなみに、USCは、Ultra Super Criticalの略である。ただ、その分お金はかかっているはずで、お金の使い方としての議論もポイントになる。再生可能エネルギーではなく、石炭火力に使ったということだ。

さて、これとは別に行政訴訟もある。国を訴えているのだ。詳しくは、こちらを参照されたい。
https://kobeclimatecase.jp/appeal_to_country/#schedule

3. World Happiness Report 2023

World Happiness Report は、政府の政策の基準として、幸福と幸福にもっと注意を払うことへの世界的な要求を反映しています。今日の世界の幸福の状態を概説し、幸福の科学が幸福の個人的および国家的な違いをどのように説明しているかを示します。 2012年にジェフリーサックスらがはじめて、11回目となっており、the Sustainable Development Solutions Network (SDSN)とコロンビア大学の the Center for Sustainable Development (CSD)が中心になって作っています。

今回のレポートでは、次のようなトピックを扱っている。

  1. national happinessについて
  2. コロナ禍における信頼と博愛について
  3. state effectivenessについて
  4. 利他的行動について
  5. ソーシャルメディアの可能性について

主な生活評価質問については、回答者に、考えられる最高の人生を 10 とし、考えられる最悪の人生を 0 とするはしごを考えてもらう。次に、その 0 から 10 のスケールで自分の現在の生活を評価する。

みなさんは、IPCCのレポートは何点に位置するのだろうか?民事訴訟の敗訴は何点だろうか?
とても難しい評価であるが、対話によりご自身の立ち位置が浮き彫りになると思われる。

4.もっと深淵を覗きたい人へ

好奇心を持って次々と探究していくことは良いことだと思う。しかし、好奇心が猫をの命を奪う、という諺があることはご存じだろうか?

インテリジェンスや語学力がないと、手に入れた情報が正しいかどうか、自身が持てないのではないか。どうだろう?その自信は確かだろうか。分からないことが分かる、というソクラテスの無知の知を以てして、はじめて確からしさに自信持てるのかもしれない。

その覚悟やリスクを持ったうえで、お問い合わせいただいた方には情報提供したい。

行政訴訟の判例
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/203/090203_hanrei.pdf


みなさんが気になるトピックはあっただろうか。具体的な出来事、抽象的な概念。何かに興味を持って頂けたら幸いである。

同時に、あなたが無意識に通り過ぎたものを大切にしている人がいるかもしれないことも再認識して頂ければ幸いである。

好奇心は猫をの命を奪う、無関心は人の尊厳を奪う。

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ライター:

1986年生まれ。大学時代にSNSベンチャーでエコライターのバイトを行い、ノーベル平和賞を取ったアル・ゴア氏の言葉に、環境問題を生涯の課題と決心する。その後、大学院に進学し、国連の会議に3回出席。CYJ1期生として化石賞の受賞や大臣への意見提出を行う。水道システムSEや環境省総合職を経て、活動15年目の現在はフリーでESG業界のエンパワーメントに挑戦している。座右の銘は「傍観者を演者に」。著書に『衡平な選択』『あなたと共にいつまでも』。

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