
「規格外」という冷酷な烙印を押された瞬間、農家が手塩にかけた作物の価値は無残に崩れ去る。そんな既存の流通システムに風穴を開けるのが、東京・池袋を拠点に快進撃を続けるグリップセカンドの逆転の発想だ。彼らは廃棄寸前の農産物を「欠陥品」ではなく、唯一無二の「個性」と捉え、新たな命を吹き込んでいく。
市場から見捨てられた宝の山と西米良村の苦悩
宮崎県西米良村、標高600メートルの峻厳な山間に広がる「ゆず団地」を訪ねると、そこには驚くべき光景が広がっていた。昼夜の激しい寒暖差に耐え、強烈な香りを蓄えた黄金色のゆず。だが、その中には形が少し歪だったり、枝で擦れた小さな傷があるだけで、市場から門前払いを食らう個体が後を絶たない。
こうした「見捨てられた宝」を救い上げるのが、同社が推進する「EXCEPT for A」プロジェクトだ。このプロジェクトから産み落とされた「柚子 HAZY IPA」は、単なる季節限定のビールではない。農家の溜息を歓喜に変え、都市の消費者を熱狂させる、究極の「物語」を液体にしたものなのだ。
エコを言い訳にしない圧倒的な品質と独自製法の秘密
驚くべきは、その妥協なき品質設計である。よくある「エコだから」という言い訳は、ここには一切存在しない。他社の取り組みと決定的に違うのは、規格外素材を「あえて選ぶ理由」が味の根幹にあることだ。
昨年を大幅に上回る15kgものピールと果肉。これを支えるのは、自社ブルワリー「RACINES MICRO BREWERY」の執念にも似たこだわりだ。発酵中にホップを投入するドライホップ製法を駆使し、ゆず本来のジューシーな香りと、IPA特有の心地よい苦味を、魔術師のような手つきで融合させている。
現場を知る醸造家が宿した料理を引き立てる哲学
この背後にあるのは、代表の金子信也氏が掲げる「食の可能性」という信念だ。醸造責任者の辻麻衣子氏は、かつてホールスタッフとして現場に立ち、客の熱量を肌で感じてきた人物。現場を知り尽くした彼女だからこそ、単なる飲料ではなく「料理を最高に引き立てる体験」を生み出せる。
「西米良ゆずの華やかな香りを、よりダイレクトに感じてほしい」
辻氏が語る言葉には、生産者・砂浜貴志氏への深い敬意が滲む。食材の背景にあるドラマを汲み取り、それを喉越しへと昇華させる。この一連のプロセスこそが、同社がファンを惹きつけてやまない理由だろう。
サステナビリティは我慢ではなく最高のクリエイティブだ
グリップセカンドの歩みから我々が学ぶべきは、サステナビリティとは自己犠牲ではなく、最高のクリエイティビティであるということだ。社会課題を解決しながら、同時に顧客の胃袋を掴んで離さない。その幸福な均衡を、一杯の濁りあるビールが見事に証明している。



