
醸造の過程で大量に排出されるブドウの搾りかすを、単なる廃棄物ではなく新たな価値を持つ資源と捉え直す。北海道仁木町のNIKI Hills Wineryが挑むのは、土地の生命力を次世代へ繋ぐための環境再生の物語である。
華やかな醸造の裏に積み上がる「負の遺産」
「地球は、未来の子どもたちから借りているものなんです」 そう語る醸造責任者、太田麻美子の視線の先には、ワイン造りの華やかな表舞台とは裏腹な、過酷な現実があった。 北海道仁木町。
いまや日本ワインの聖地として注目を浴びるこの地で、広告大手DACグループが手掛ける「NIKI Hills Winery」が、常識を覆す一歩を踏み出した。 醸造の最盛期、現場を悩ませるのは毎日数トンも積み上がるブドウの「搾りかす」だ。
重労働な運搬、乾燥場所の確保、そして無視できない虫の発生。 理想のワインを追求する裏側で、スタッフたちが抱えてきたこの「重荷」を、彼女たちは驚きのアイデアで宝物へと変えてみせた。
女性醸造家が託した「飲めない時期」への贈り物
3月8日、国際女性デー。 この日、オンラインで発売されるのは「ワイン紅茶」という名の、環境再生への挑戦状だ。
自社畑のピノ・ノワールから生まれたこの商品は、単なるリサイクル商品ではない。 きっかけは、女性スタッフたちの切実な願いだった。
「マタニティや授乳中など、ライフステージの変化で大好きなワインを諦めなくてはいけない人にも、あの芳醇な香りを楽しんでほしい」 現場の重労働への葛藤と、ワインへの純粋な愛。 その両方を解決するために選んだ答えが、アルコールを含まず、体に優しいノンカフェインの「紅茶」という形だった。
準限界集落を救う「巻き込み型」の資源循環
NIKI Hills Wineryの凄みは、自社完結で終わらせない「巻き込み力」にある。 搾りかすを町内の養鶏家へ飼料として提供し、レストランの食材やアクセサリーの原料へと変えていく。
かつて準限界集落と呼ばれた仁木町の再生を掲げて始まったこのプロジェクトは、いまや地域全体の「資源循環モデル」へと進化を遂げている。 「自分たちのあとに続く子たちが、これを永遠に続けると考えたときに何かが違う」 太田が感じたその違和感こそが、停滞する地方創生を打破する鍵となったのだ。
泥臭い誠実さが照らす「日本ワイン」の未来
私たちはこの「一杯の紅茶」から何を学べるだろうか。 それは、サステナビリティとは決して高尚なスローガンではなく、目の前の「捨てられるはずのもの」にどれだけ愛情を注げるかという、極めて泥臭い誠実さのことだ。
「まだすべての廃棄物をゼロにできているわけではありません」と彼女たちは謙虚に笑う。 しかし、その一歩は確実に、北海道、そして日本ワインの未来を明るい方角へと押し進めている。 この春、オンラインショップから届く香りは、きっと単なる紅茶以上の「未来の希望」を運んでくるはずだ。



