
「既製品に自分を合わせるのではなく、自然に寄り添い居場所を作る」。昭和3年創業の山陽製紙が掲げるこの思想は、大量生産・大量消費の時代に対する静かな、しかし力強いアンチテーゼである。
20メートルの衝撃。工業用技術が変える春の景色
大阪府泉南市に本拠を置く山陽製紙が、自社のアップサイクルブランド「crep(クレプ)」の10周年を記念し、驚くべき一手を打った。発表されたのは、全長20メートルにおよぶ巨大な「お花見シート」である。
通常、レジャーシートといえば家族数人が座れる程度の定型サイズが一般的だ。しかし、同社が世に問うたのは、視界の先まで境目なく広がる「一筋の紙」である。この規格外の製品は、同社が長年培ってきた工業用包装資材の製造技術、すなわち「巨大なロール状の紙を操る力」があってこそ実現した。
2月25日から期間限定で発売されるこのシートは、全16種類の意匠を凝らしたデザインで展開される。単なる「敷物」の枠を超え、春の公園という公共空間の景観そのものをアップデートしようとする試みだ。
「切れる」強み。工業用クレープ紙の秘めたる可能性
他社のレジャーシートと決定的に異なるのは、その素材と「可変性」にある。原料はセメント袋の口縫いなどに使われる「工業用クレープ紙」。独特のシワが生む強度と伸縮性、そして紙とは思えないほどの耐水性を備えている。
特筆すべきは、使い手がハサミで自由な形に裁断できる点だ。自然の地形は決して平坦ではない。木の根元が隆起し、地面には微妙な起伏がある。プラスチック製の硬いシートでは拒絶されるような地形であっても、この紙のシートは柔軟に寄り添う。
「自然の造形に合わせて形を変える」という体験は、消費者が主体となって環境と対話することを意味する。余った端切れはテーブルマットやギフト包装に転用できるという。無駄を価値に変える「アップサイクル」の精神が、製品の細部にまで息づいている。
守るべきものを、使いながら感じる哲学
山陽製紙の根底にあるのは、循環型社会への深い献身である。同社は中小の製紙業として日本初となる「SBT認定」を取得し、製造工程の排水管理や再生可能エネルギーの導入を徹底している。
代表の原田六次郎氏が率いる同社にとって、crepは単なる商品ブランドではない。「自然と触れ合い、楽しみながら、守るべき自然を身近に感じるきっかけ」を作るためのメディアなのだ。
古紙を原料とし、高機能な資材へと再生させ、最後はまた土に近い存在として自然の中に持ち込む。この一連の流れは、同社が標榜する「希少価値のある紙創り」の体現に他ならない。
循環の輪を広げる。100年企業が示す生存戦略
この老舗企業から学べるのは、自社の「本業の技術」をいかにして現代の文脈に翻訳するかという知恵だ。工業用の地味な包装資材を、一般消費者が憧れるエシカルなライフスタイル用品へと昇華させた手鮮やかさは、多くの製造業にとって希望の光となるだろう。
「お花見」という日本古来の文化に、アップサイクルという現代の倫理観を掛け合わせる。山陽製紙が広げる20メートルの紙は、私たちが自然とどう向き合うべきか、その「距離感」を問い直しているようにも見える。
この春、男里川の河川敷で予定されている体験イベントでは、20メートルの紙が川辺を彩るという。それは単なる販促イベントではなく、100年先も美しい春を迎えるための、同社からのささやかな、しかし確かな挑戦状なのかもしれない。



