
かつて業務用風呂敷で国内トップシェアを誇った名古屋の老舗メーカーが、静かに主戦場を変えている。
愛知県名古屋市に本社を置く株式会社三景。1975年創業、従業員47名。不織布加工と風呂敷製造を柱に成長してきた企業だ。長年、冠婚葬祭や贈答用途で使われる業務用風呂敷の販売枚数で国内シェア上位を維持してきた。
しかし、人口減少と生活様式の変化は伝統商材にも影響を及ぼした。風呂敷需要は年々減少。このまま国内市場だけに依存していては持続的成長は難しい。経営陣の危機感は強かった。
そこで同社が踏み出したのが、環境対応型不織布への本格シフトだった。
SDGs浸透で変わった包装材の常識
転機は2021年。SDGsの浸透により、包装材の選択基準が変わり始めた。価格や強度だけでなく、環境負荷が問われる時代へと移行したのである。
欧米では環境規制が厳格化し、CO2排出抑制やリサイクル原料使用、生分解性素材への対応が事実上の前提条件になりつつある。輸出製品に使用される包材も例外ではない。
三景はここに商機を見いだした。
植物由来原料やリサイクル原料を用いた不織布、土壌や海水中で分解する生分解性不織布など、環境負荷を抑えた素材を積極採用。さらに、それらを単なる環境配慮素材で終わらせず、現場で使える実務性能を持たせることに注力した。
強度、クッション性、静電気対策、作業性。大手家電・精密機器メーカーの厳しい規格要求に応えられる品質を実現した点が評価され、出荷は年々拡大しているという。
ニッチ産業の技術が武器に
不織布加工は決して華やかな産業ではない。だが、用途ごとに細かく設計される包材の世界では、長年の技術蓄積が大きな差となる。
三景は風呂敷加工で培った「包む」技術を、不織布加工へ応用してきた。半世紀にわたる加工ノウハウは、大手企業の品質基準をクリアする安定供給体制へと結実した。
その結果、環境規制の厳しい欧米向け製品では、同社の環境配慮型包材がほぼ必須になりつつあるという。
伝統の延長線上にあった技術が、次の時代の武器になった格好だ。
ベトナム進出という決断
さらに同社は、国内市場縮小への備えとして海外展開に踏み切る。
2024年、ベトナム進出を決断。東南アジア全体を視野に入れた戦略だ。東南アジア人口は約3億人。日本市場とは比較にならない成長ポテンシャルを持つ。

中小企業にとって海外進出は容易ではない。人材確保、原材料調達、物流、法制度への対応など課題は多い。それでも同社は投資を決断した。
2025年秋、ベトナム工場で環境配慮型包材の製造を開始。2026年初頭から本格生産に入った。国内風呂敷需要の落ち込みを補完し、現在は業界内で約4割のシェアまで拡大している。
目標は脱炭素と海外で勝てる企業体質
同社が掲げる目的は明確だ。1つはCO2排出削減とプラスチック削減への貢献。もう1つは、環境配慮という付加価値を武器に海外市場で競争力を持つ企業体質へ進化することだ。
将来的には、東南アジア全体を視野に入れた環境包材の拠点づくりも構想する。ベトナム人材の育成にも力を入れ、地域に根差した生産体制の確立を目指すという。
2025年9月には新ロゴと新タグラインを発表した。
「つつむことは、愛すること。」
老舗企業が掲げたこの言葉は、単なるブランド刷新ではない。包むという行為を、環境配慮と社会責任へ拡張する宣言でもある。
国内縮小市場に甘んじるのではなく、構造転換で活路を開く。三景の挑戦は、同じ課題に直面する中小製造業にとって1つのモデルケースになりそうだ。



