
「毎年17トンものゴミを、ただ捨て続けるわけにはいかない」――。石垣島の美しきサンゴ礁を蝕む「ゴーストギア(廃棄漁具)」に、一石を投じる企業が現れた。株式会社ソルトラボ石垣島が仕掛ける、廃棄された釣り糸を高級サングラスへと変貌させる驚きのアップサイクルとは。
海底に潜む「静かなる暗殺者」の正体
沖縄・石垣島のコバルトブルーの海。観光客が息を呑むその絶景の裏側で、サンゴが悲鳴を上げている。犯人は、荒天や潮流で海に取り残された「ゴーストギア(廃棄漁具)」だ。
サンゴの枝に深く絡みついた漁網や釣り糸は、日光を遮り、成長を物理的に阻害する。さらに厄介なことに、これらは数百年単位で分解されず、細分化されてマイクロプラスチックとして海を汚染し続ける。まさに「静かなる暗殺者」だ。
これまで、この撤去作業はダイバーたちの善意や、単発の補助金に頼らざるを得なかった。2024年からの2年間で約17トンを回収したものの、2026年、ついに資金の蛇口が止まった。
「このままでは、サンゴが死んでいくのを指をくわえて見ているしかないのか」
そんな絶望的な状況下で、ソルトラボ石垣島はある「逆転の発想」に打って出た。
離島発、驚異の「ゴミからペレット」への転換
彼らが選んだのは、ボランティアという一時しのぎの道ではない。ゴミを「金」に変え、その利益で海を掃除し続けるという、したたかなビジネスモデルの構築だった。
特筆すべきは、その徹底した現場主義だ。通常、離島で出たプラスチックゴミは本土へ輸送して処理される。しかし、彼らは石垣島内で回収・洗浄・破砕、そして「再生ペレット化」までを完結させるという、全国でも類を見ないスキームを作り上げた。
地元の海人(うみんちゅ)たちが協力して回収したマグロの釣り糸。それが島内の工場で命を吹き込まれ、最高級のナイロン素材へと生まれ変わる。この「離島完結型」のプロセスこそが、他社には真似できない独自の価値を生んでいるのだ。
福井・鯖江の技術が宿る、60%の再生率
こうして誕生したのが、アップサイクルサングラス「Maguuro(マグーロ)」だ。驚くべきは、フレーム素材の約60%が廃棄漁具由来であるという事実だ。再生素材は強度の確保が難しいとされるが、彼らは一切の妥協を許さなかった。
「海を守るために、品質を犠牲にしては意味がない」
そのこだわりは、眼鏡の聖地・福井県鯖江市での最終組み立てに結実した。石垣島で生まれた素材が、日本の誇る最高峰の技術と融合し、極上の装着感を持つプロダクトへと昇華したのである。
「買う」ことが「守る」に直結する未来
現在、彼らはこの「Maguuro」をリターンとしたクラウドファンディングに挑戦している。狙いは明白だ。サングラスの売上で、2026年以降のゴーストギア撤去費用を自前で捻出することである。
「寄付」ではなく「買い物」を通じて、消費者が石垣島のサンゴを守るサイクルに組み込まれる。このサーキュラーエコノミー(循環型経済)の成功は、全国の海岸線が抱える「海洋ゴミ問題」に対する、最強の処方箋になるかもしれない。
石垣島の海が再び呼吸を始めるかどうか。その鍵は、この一本のサングラスが描く「循環の輪」に託されている。



