
食品業界の巨人が、一ベンチャーの掲げた「機会格差の解消」という理想に動いた。国分グループ本社とネッスーが構築したのは、単なる寄付ではない。既存の商流を活用し、未利用食品を有償で循環させる持続可能な「支援のインフラ」である。
善意を「仕組み」に変えた物流革命
食品ロス削減の掛け声は勇ましいが、現場の足取りは重かった。賞味期限が迫った「未利用食品」を支援団体に届けようにも、個別の配送コストや仕分けの事務負担が、企業の善意を押し潰してきたからだ。
2026年2月、食品卸大手の国分グループ本社とネッスー株式会社が発表した連携施策は、この「コストの壁」を鮮やかに突破した。彼らが提示したのは、通常の商品と未利用食品を同じトラックに載せる「混載配送」という極めて合理的な回答だ。
特別な物流網をゼロから作るのではなく、網の目のように張り巡らされた既存のインフラに、未利用食品という「新たな価値」を相乗りさせたのである。
「無償」の呪縛を解くソーシャル・プライシング
この取り組みが他社と一線を画すのは、「あえて有償にする」という逆転の発想にある。独自の概念である「ソーシャル・プライシング」は、物流費などの必要最低限のコストを価格に転嫁しつつ、支援団体が無理なく購入できる水準に設定するものだ。
「これまでの支援は寄付や補助金頼みで、一過性に終わりがちでした」と、ネッスーの木戸優起代表は語る。
無償提供は美談にはなるが、企業側には持ち出しの負担が残り、受け手側も「あるものをもらうだけ」という受動的な立場に甘んじざるを得ない。有償化することで、企業は経済合理性を保ちながら継続的に参画でき、こども食堂などの利用団体は「必要なものを自ら選んで買う」という主体性を取り戻す。
この「持続可能なギブ・アンド・テイク」こそが、実証実験で高い社会的投資収益率(SROI)を叩き出した真因といえる。
哲学としての「ブランド保護」と「トレーサビリティ」
背景にあるのは、食品メーカーが最も恐れる「ブランド毀損」への深い理解だ。安易な安売りは、正規価格で販売している小売店との関係を悪化させ、転売のリスクも孕む。
今回の仕組みでは、提供先を厳格に「支援を必要とする世帯・団体」に限定し、独自のプラットフォームで流通を可視化した。メーカーにとって、これは単なる在庫処分ではない。
自社の製品が「誰の、どんな笑顔に変わったか」を追跡できる、誇りある社会貢献活動へと昇華されたのだ。2026年春に設立される「未利用食品の活用推進コンソーシアム」は、この透明性を業界のスタンダードにしようとしている。
経済と福祉を両立させる「三方よし」の教訓
本事業から学べるのは、社会課題の解決にこそ「本業の強み」を投じるべきだという教訓だ。国分グループの圧倒的な物流網と、ネッスーの現場感覚。これらが掛け合わさることで、SDGsという言葉が形骸化する中で、血の通った「ビジネスとしての社会福祉」が誕生した。
「善意は持続しないが、仕組みは持続する」
幕張メッセで開催される展示会で、彼らはさらなる仲間を募る。一企業の枠を超え、業界全体が「未利用」を「希望」に変えるエンジンとなる日も、そう遠くはないはずだ。



