
「流域」という視点で環境を捉え、米国で絶大な信頼を集める厳格な環境認証を、日本の酒造りが初めて射止めた。株式会社Super Normalが手掛ける「MEGURU」は、単なる美酒の提供に留まらず、消費を環境再生へと直結させる次世代の経済モデルを提示している。
米国発の環境認証Salmon-Safeを日本酒で国内初取得した意義
2026年1月19日、株式会社Super Normalは、日本初となるSalmon-Safe(サーモン・セーフ)認証を取得した日本酒「MEGURU」の販売をMakuakeにて開始した。Salmon-Safeとは、米国オレゴン州を拠点とする環境保護団体が提唱するエコラベルであり、サケが産卵し繁栄できる豊かな河川環境を守ることを主眼に置いている。この認証の特筆すべき点は、個別の農場だけでなく、都市開発や企業の敷地管理までを流域という広範な単位で審査することにある。マイクロソフトやナイキといった世界的企業もこの基準を導入しており、米国西海岸では極めて権威ある指標として認知されている。今回、兵庫県の酒米農家と二つの蔵元が連携し、この国際的な認証を日本で初めて獲得したことは、国内のサステナブルなものづくりが世界基準へと接続されたことを意味している。
廃棄物を資源に変える独自の循環デザイン
MEGURUが他社の環境配慮型商品と一線を画すのは、地域内での資源循環を緻密に設計している点にある。その中核にあるのは、神戸新聞社が推進する地エネの酒 for SDGsプロジェクトだ。牧場のバイオガス事業から生じる消化液を、単なる廃棄物ではなく酒米「山田錦」の肥料として活用する。この廃棄物の再資源化と脱炭素農法の実践こそが、Salmon-Safeの厳格な審査基準をクリアする決定打となった。商品展開においても、伝統的な手仕事を貫く岡田本家と、自然の菌の力を借りる生酛造りにこだわる富久錦という二つの個性を揃えている。さらには、アルコールを嗜まない層に向けても繊維ゴミを再利用した循環素材によるアパレルを展開しており、食から衣にわたる全方位で流域を守るというメッセージを具現化している。
優れたふつうを再定義する思想の力
このプロジェクトを牽引するSuper Normalの背後には、これからのふつうを定義し直すという強固な哲学が存在する。代表の奥谷孝司氏は、昨今のSDGsという言葉の形骸化に対し、より透明性の高い背景のあるものづくりの重要性を説いている。同氏は、手間をかけ心を込めたものづくりが、検証済みで独立したローカル認証によって認められ、それが消費者の購買指針となる社会こそが、本来あるべきふつうの姿であると語る。同社が掲げる思想は、決して特別な贅沢を煽るものではない。地域の環境を汚さず、資源を循環させ、それが結果として美味しい、あるいは心地よいという、至極真っ当な経済活動の追求である。Salmon-Safeという概念を導入したことは、企業活動を点ではなく、生態系という面での貢献へと昇華させるための必然的な選択であった。
日本企業がMEGURUから学べること
Super Normalの取り組みから学べるのは、抽象的な環境配慮を、いかにして第三者認証という客観的な信頼へと翻訳し、市場価値を高めるかという高度な戦略である。米国で定着しているSalmon-Safeという概念を日本の伝統産業に接続したことで、国内の文脈を超えた国際的な競争力を獲得している。また、新聞社、牧場、農家、蔵元、素材サプライヤーといった多様なステークホルダーを一つの循環の環にまとめ上げるプロデューサー的視点は、単独企業では到達し得ない規模のインパクトを創出している。環境保護を単なるスローガンに終わらせず、認証された酒や循環素材の製品という、消費者が手触りを感じられる形で提示している点は極めて示唆に富む。飲むことが環境を守ることに直結するこの試みは、今後の日本におけるサステナブル経営の参照点となるだろう。



