
地域に眠る未利用資源を、高付加価値なプロダクトへ昇華させる。滋賀県多賀町で進む廃業酒蔵の再生は、単なる伝統継承に留まらず、酒粕や規格外野菜を資産に変える新たな経済モデルを提示し、注目を集めている。
ハーブリキュール「SATONOWA」が拓く地域産業の自立
株式会社おおたき里づくり研究所とNPO法人おおたき里づくりネットワークは、滋賀県多賀町産のクロモジなどを原料としたハーブリキュール「SATONOWA No.3 Kuromoji & Perilla」をリリースした。今回の発表は単なる新商品の紹介ではない。同社は現在、廃業した酒蔵を再生し、自社で酒類製造免許を取得するためのプロセスを加速させている。今回開始された販売型クラウドファンディングは、製造拠点構築と地域産業の自律に向けた重要な布石となる。
酒粕や規格外野菜を再定義する「アップサイクル」の競争優位性
「SATONOWA」が既存の酒類事業と一線を画すのは、徹底した「アグリフード・アップサイクル」の思想だ。ベースアルコールには地元の酒粕を再利用した粕取焼酎を採用し、そこへ規格外のビーツや自家栽培のローゼルなどを浸け込む。海外産ボタニカルに依存しがちなクラフト酒市場において、多賀町産のクロモジや大津市の赤シソといった滋賀のテロワールを100%国産品質で封じ込めている点は極めて戦略的だ。既存の流通では「ロス」とされるものを高単価な嗜好品へと転換する、資源循環の先進事例といえる。
サステナビリティを軸にした「里山経済」の再構築
この取り組みの核心には、産学官民が一体となった「里づくり」の哲学がある。単に酒を造るのではなく、そのプロセスを通じて地域の生態系と経済を循環させる狙いがある。関係者が「廃業酒蔵を次世代につなぐ拠点として再生したい」と語る通り、かつてコミュニティの中心であった場を現代の文脈で再定義している。歴史ある建物という「ハード」の修復と、リキュールという「ソフト」の開発を高度に同期させる手法は、現代における地域デザインの模範解答といえる。
地方創生を成功させる「スモール・エクセレンス」の視点
本プロジェクトは、縮小社会における資源の再定義という重要な示唆を与えてくれる。廃棄されるはずの酒粕や規格外品をストーリー性の高い商品へと転換する構想力、そして既存ストックを低コストかつ意味深く再構築する視点は、あらゆる地方ビジネスに応用可能だ。NPOがビジョンを描き、株式会社が実務を担う多層的な連携は、外部資本に依存しない「内発的発展」の可能性を証明している。多賀町の試みは、足元にある資源を独自の技術で編み直す「スモール・エクセレンス」の価値を物語っている。



