
「ロボットは単一機能であるべき」という固定観念を、愛知県の老舗メーカーが塗り替えようとしている。カインズの次世代型店舗で始まった実証実験は、1台の機体に搬送・清掃・販促の役割を持たせることで、導入コストとスペースの壁を突破する野心的な試みだ。
カインズ次世代型店舗で始動、24時間フル稼働する多機能AMRの正体
深刻な人手不足に悩む小売業界において、自動化の波は加速している。しかし、通路の狭い店舗内に搬送用、清掃用、販促用と複数のロボットを並べるのは現実的ではない。こうしたなか、電子部品実装ロボットの国内大手である株式会社FUJIは、12月にオープンした「カインズ 吉川美南店」にて、1台3役をこなす多機能型自律走行ロボット(AMR)の実証運用を開始した。
このロボットは、時間帯によってユニットを付け替えることで、夜間は最大500kgのカゴ台車搬送、開店前は床清掃、日中は販促活動と、24時間役割を変えながら店舗運営を支える。まさに「眠らない労働力」の誕生である。
なぜ「1台3役」なのか。単機能ロボットの限界を突破するプラットフォーム戦略
他社のロボット導入事例の多くは、特定の作業に特化した「専用機」の導入である。しかし、専用機は作業がない時間はバックヤードで待機することになり、費用対効果(ROI)の算出が難しいという課題があった。
FUJIの取り組みが画期的なのは、ロボットを「特定の作業機」ではなく、機能ユニットを載せ替える「プラットフォーム」として捉えた点にある。これにより、店舗側は限られたスペースに1台分の駐機場所を確保するだけで、複数の自動化ソリューションを享受できる。メンテナンスやスタッフの教育コストを最小限に抑えつつ、投資効率を最大化させるこの設計思想は、合理性を重んじる小売チェーンにとって極めて説得力が高い。
現場の声を形にする「ものづくり哲学」とロボットカンパニーの矜持
この多機能化の背景には、FUJIが長年培ってきた「ロボット技術への信頼性」と「社会実装への哲学」がある。同社は1959年の創業以来、電子部品を基板に配置するマウンターの世界で、極めて高い精度と耐久性を追求してきた。
「人々の心豊かな暮らしのために、驚きと感動を与える商品をお届けする」という同社の理念は、単なる技術誇示ではない。今回の多機能化も、現場スタッフの「ロボットが増えると管理が煩雑になる」という切実な声に寄り添った結果と言える。五十棲丈二社長が掲げる「ロボットカンパニーとしての持続的成長」の鍵は、先端技術をいかに人間の負担を減らす「優しい道具」へと昇華させるかにかかっている。
サステナブルな自動化を実現する「掛け算」の効率化
FUJIの事例は、これからの省人化投資において重要な示唆を与えてくれる。それは「足し算ではなく、掛け算の効率」を考える視点だ。
新しい課題に対してその都度、新しい専用機を増やす「足し算」の解決策は、いずれ現場の飽和と管理コストの増大を招く。対して、1つの共通リソース(機体)に複数の機能(ユニット)を載せる「掛け算」のアプローチは、資源の有効活用という観点からも極めてサステナブルである。
「1台でどこまで現場を救えるか」というFUJIの挑戦は、自動化が一部の先進事例から、社会を支える「インフラ」へと進化するための試金石となるだろう。



