
不用品を処分することが、誰かの未来を支える一歩になる。京急電鉄とスタートアップのFASHION Xが開始した「キフル」は、衣類廃棄の抑制と国内の貧困児童支援を直結させた、極めて地縁性の強い循環モデルである。ビジネスと社会善をいかに両立させるか、その解がここにある。
京急沿線から始まる衣類回収と児童支援の新たな実証実験
京浜急行電鉄株式会社(以下、京急電鉄)と、リサイクル・リユース事業を展開する株式会社FASHION Xは、2025年12月19日より、郵送回収型寄付支援サービス「キフル」の実証実験を開始した。利用者が専用キットを購入し、不要になった衣料品や雑貨を郵送すると、FASHION Xがそれを再流通させ、収益の一部を国内の貧困児童への食事や教育支援に充てる仕組みだ。
特筆すべきは、寄付先の一つとして京急沿線で「移動式子ども食堂」を運営するNPO法人と提携している点である。鉄道インフラを基軸とした「沿線」というコミュニティの中で、資源と支援のサイクルを完結させようとする試みが動き出した。
郵送回収サービス「キフル」が既存の古着リサイクルと一線を画す理由
本取り組みの独自性は、既存の衣類回収に「郵送」というアクセシビリティと、「地域還元」という明確な出口戦略を組み合わせた点にある。
多くの衣類回収プログラムは、回収された後の行方が不透明になりがちだが、「キフル」は1キットあたりの寄付内容を「食事7人分」あるいは「授業1回分」と具体的に数値化している。さらに、京急電鉄は既に沿線6箇所に回収ボックスを設置し、約32.5トンの古着を回収した実績を持つ。今回の郵送サービス導入は、ボックスへ足を運ぶことが難しい層を網羅し、社会貢献の分母を広げる狙いがある。自社の輸送網や顧客接点を、単なる移動手段から「社会資本の循環路」へと昇華させている点が、他社の単発的な環境キャンペーンとは一線を画す。
サーキュラーエコノミーの核心:沿線価値を高める「三方良し」の哲学
この協業の背景には、京急電鉄が掲げる「持続的に発展する沿線まちづくり」への危機感と使命感がある。人口減少社会において、選ばれる沿線であり続けるためには、利便性だけでなく「その街に住む意義」が問われる。
FASHION Xの畠山怜之代表は、服を捨てない循環型社会の構築を標榜している。一方で、京急電鉄はオープンイノベーションプログラムを通じ、スタートアップの機動力と自社の信頼性を融合させた。両者に共通するのは、環境負荷低減というマクロな視点と、目の前の子どもの空腹を満たすというミクロな視点の両立である。「利己的な廃棄を、利他的な循環へ変える」という哲学が、このプラットフォームの背骨となっている。
京急の事例から学ぶ、企業のSDGs・サステナビリティ戦略の要諦
本事例からビジネスパーソンが学ぶべきは、自社の既存アセット(駅、沿線ネットワーク、信頼)に、現代的な「正義」をどう組み込むかという視点だ。
第一に、社会貢献を「日常化」させる仕組み作りである。4,950円というキット価格は一見安価ではないが、清掃や配送の手間を含めた「参加コスト」として提示し、納得感のある支援内容と紐付けることで、一過性のボランティアを超えたサービスとして成立させている。
第二に、ステークホルダーの重なりへの着目だ。沿線の住民が排出した不用品が、同じ沿線の子どもの支援につながる。この「地産地消型」の社会貢献は、参加者の当事者意識を強く刺激する。「移動」を提供する鉄道会社が、人々の「想い」を運び、地域の「未来」を育む。事業の定義を一段高いレイヤーで捉え直すことが、持続可能なブランドを築く鍵となるだろう。



