
ストレッチパンツ専門ブランド「ビースリー」が衣料品回収プロジェクトで累計450万点を突破した。創業以来掲げてきた“売って終わりではない”という思想を軸に、17年続くエコキャンペーンが循環型ファッションの実践モデルとして進化している。
衣料450万点回収の到達点
ストレッチパンツ専門ブランド「ビースリー」(運営:株式会社バリュープランニング)が実施する衣料品回収プロジェクト「ビースリーエコキャンペーン」が17年目を迎え、累計回収数が450万点に達した。同社の発表によると、12月15日から始まる第32回キャンペーンでは、全国144店舗と公式通販サイトで衣料品や小物を受け付け、回収品はリユースまたは繊維リサイクルへと生まれ変わる。俳優の天海祐希さんがアンバサダーに就任し、循環型ファッションを社会に広げる顔として参加する。
今回のキャンペーンは、レディース・メンズ・キッズのカテゴリーを問わず他社製品も対象とし、衣料品2点につき1,100円分のエコクーポンを配布する。再利用可能な衣類は寄付や再使用へ、素材として利用できるものは自動車内装材や再生ポリエステルなどへ加工される。ビースリーが2009年から積み上げてきた仕組みは、廃棄物削減に直結する地域密着型の循環システムへと育った。
“売って終わりではない”を貫く独自モデル
ビースリーの特徴は、アパレル企業の多くが販売後のサイクルに踏み込まないなか、製品の「使い終えたその先」まで責任を持ち続ける姿勢にある。同社は自らを“アパレル否定型アパレル”と称し、トレンド主導の大量消費モデルから距離を置く。独自の研究開発ラボ「美脚研究所」で高い耐久性を持つストレッチ素材を研究してきたが、どれほど丈夫でも劣化は免れない。そこで2009年に開始した回収事業を制度化し、環境と顧客価値を同時に高めるサイクルを築いた。
2020年以降には他社製品まで対象を拡大し、顧客の衣生活全体を包括する循環モデルへ発展した。単なるCSRではなく、価値創造の中枢に“循環”を据える経営スタイルこそ、ビースリーの独自性を際立たせている。
背景にある思想とサステナビリティ観
ビースリーは神戸・元町で生まれたブランドで、「Healthy & Beauty」を掲げ、履き心地と美しさを追求してきた。創業31年を迎える現在も、同社の根底には流行消費に左右されず、長く愛用されるものづくりを徹底する哲学が息づく。アパレル廃棄問題が国際的な課題となるなか、“長く使える製品”と“使い終えた後の責任”を一つの価値として統合する姿勢は、循環型ファッションの本質を示す。
店頭での接客を通じて顧客が気軽に回収に参加できる仕組みを整えてきた点も重要だ。生活者が「買う」だけでなく「循環に関わる」主体へ変わる体験を提供している。
循環型ファッションが企業に示すもの
450万点という回収実績は、単に廃棄を減らした量の問題ではなく、企業理念を17年間一貫して行動に落とし込んできた積み重ねの証でもある。ビースリーのように、プロダクトの耐久性向上と循環システムの整備を両輪で進める企業はまだ多くない。ビジネスモデルの“出口”をデザインすることで、顧客ロイヤルティ、ブランド価値、環境貢献を同時に高められる点は、他産業にも応用可能な示唆となる。
ファッション産業における大量廃棄の課題が深まるなか、ビースリーのモデルは今後、地域循環・企業連携・素材開発の三方向に広がる可能性がある。循環型ファッションが「特別な取り組み」から「産業の前提条件」へ転換する時代に向け、同社の17年の蓄積は未来の標準を先取りした動きといえる。



